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孤爪研磨のどこが好きかと言われたら、数分間の間澱みなくそれをあげ連ねていける自信が私にはある。(…ってこないだ黒尾に言ってみたら本気で引かれたから今後もうこんなこと人前では言わないようにするけど。)それくらいに私は研磨のことが好きで、それはたぶんバレー部では部員みんなが知っていることだ。研磨ももう、黒尾曰く全身で研磨が好きだと告げているらしい私を日常の一部として捉え出したような様子で、何やらよくわからない状況に戸惑う今日この頃である。

ーーー音駒高校バレー部の背骨で、脳で、心臓。チームメイトにそこまで言わせる頭脳、技術をもつ研磨。いつもはゲームばっかりだし、なんとなくふらふらしてるし、ぼーっとしてる時間なんて異常に長い。見てるこっちが不安になるくらい長い。けれど、いざ試合が始まるとわずかながら何かが変わる。
眼が変わるし、纏う雰囲気も変わる。セッターとして音駒のメンバーを的確に動かしていく研磨は本当にかっこいい。いつもの研磨も好きだけれど、やっぱりバレーをしている研磨が私は一番好きだ。黒尾との連携なんて見ているこっちがワクワクする。練習試合をたまに覗きにいくけれど、その度見ているこっちが興奮して、でも見入ってしまう。数日経ってもまだ、その余韻に浸れるくらいには。




「…篠崎こわい…」
「えっ」
「な、なんかこわいちょっとこわい」

私と廊下で出くわすなりずざざと向こうに飛びのくようにしてにげた研磨にショックを受けた。ものすごいスピード…ものすごい反応の仕方……ていうかちょっと待ってなんで逃げるの研磨、そしてなんでにやにやしてる黒尾の後ろに隠れるの!!

「け、研磨ぁぁっ」
「クロそのまま動かないでね」
「むっ……、ちょっと黒尾くんうちの研磨を返してくれないかな ねえ」
「おーおー怖いなァー」

ニヤ、と黒尾の口元がゆがむ。返して欲しいか〜そうかそうか〜なんて、思い切り上から目線でものを言って来る。しね。いちいち腹立つ。
ふと見ると、いつもならこのあたりで絡んでくるはずの研磨は黒尾の後ろで静かにじっとしているようだ。…なんだろ私、何かしちゃったんだろうか。研磨、とよんでみても返事なし。何回呼んでもスルー。逃げられるのには慣れてる、でもいつもなんだかんだで私と会話くらいしてくれる研磨に、ここまで拒絶じみたことされたのは初めてで、正直今すごくじわじわきてる。

「あれれー篠崎もしかして泣きそうー??」
「だまれ黒尾こないだ聞いた好きな子ここで大々的にばらすよ」
「おい適当なこと言ってんじゃねえぞ」

がしりと頭を掴まれぐぐぐぐぐと力を込められる。いったいわぼけ!と叫ぶとけらけら笑われる。バカにされているのが嫌という程わかる。もう一回言うが、しね。

とそこで、「…じゃ、俺は……」と研磨がそそくさとその場から退散しようとした。
ーーーーえ、待って、まだなんで無視されているのか聞いてない。
黒尾のすねを渾身の力で蹴り飛ばして(でも手応えなかったからたぶん避けられた)、すいすいと縫うように人の多い廊下をすすむ研磨を追った。
渡り廊下の前で、やっと追いつく。

「ちょっと研磨、」
「…なに?」
「なんで、今日、私と話してくれないの…?」

あー。なんか。今言いながら思った、今更ながらだけど私もしかして結構うざい奴かもしれない。研磨からしたら特に意味のないことに、ただ私が悲しくなってるだけかも…え…どうしよう。普通に迷惑だったりして。
恐る恐る研磨を見ると、ただ静かに私を見返していた。

「篠崎の言うことが…なんていうか……いい加減だから?」
「え」

研磨の言葉は、唐突なうえに心外だった。つまりええと、私が言うこと、研磨に信用されてなかった…?どういうこと、

「人のこと好きだ好きだって言うけど…でも篠崎、…………別にそんなじゃなさそうだし」

それきり黙ってしまった研磨に、私はなんとなく、違和感を感じていた。研磨の言いたいことは、私はそこまで鈍感でもないからわかる、…でもそれじゃまるで研磨が私のことを好き、みたいになるんじゃないか。って考えるのは、あまりに行き過ぎてしまっているだろうか。望み過ぎて幻聴プラス妄想か。私危ういかもしれない。
でも生まれた希望を捨てられず、思わず尋ねた。

「あのね研磨、私の思い違いならそれでいいんだけど、その。…すねてたりしますか?」
「え」
「え」

面食らった顔をしているけれど、否定はしない。自覚なかっただけで、多分その通りだったんだろう。そこでやっと、心拍数がばんと上がった感覚がした。…ああこれ私、期待とか、していいのかもしれない、となんとなく思った。

研磨が、困ったような顔をして、「ただその」と口を開いた。

「篠崎…………クロと仲良いから、」

ぼそりと呟くように言ったその言葉を私が聞き逃すはずがなかった。私もしかしてものすごく自意識過剰なのかなさっきから、…いやでもそうじゃなくてもこれは研磨が妬いてくれてたとかいうふうに捉えられると思う。ど、どうしよう、とにかく焦るな私。

「えっ…と」
「……………」
「えあ、ちょ、ちょっと待って」

ふい、と顔を背けてその場を離れようとする研磨を慌てておさえ、これまでに何度も言ってきた言葉を、ゆっくり口にした。

「私は研磨が、すきだよ」
「……………………」

ぴたりと動きを止め、私には顔を向けず黙り込んだ研磨。一体、なんて返されるんだろう。
いつもなら、はーあとため息をつかれるか、「知ってるし…」と言われるだけ。でも私の望む返事が返ってくる、という確信が、このときの私にはあった。



応答を願います

「…………………。(………どうしよう)」
「…え、ま、まさかの無言」


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