「はいそこの野球部キャプテンゆーき哲也くん!ちょーっとお時間よろしいですか?」

「む、どうした椎名、熱でもあるのか?」

「…うっさいわね空気読んでよ」


普段はそんなにノリがいい訳でもないあたしだけど、取材となるとそうもいかない。テンションは無理矢理上げる。


「うちの部活で今回野球部を取り上げる事に決まったの、だからキャプテンの結城に話聞きたくて」


取材オッケーですかー?とエアマイクを持って尋ねると、結城は勢いに押されたのかこくんと頷いた。


うちの学校の放送部は、たまに昼休みに学校全体に放送を流している。その内容は、先生との質疑応答だったり、行事の結果発表だったり、部活の特集だったり、今日のわんこだったり、様々だ。

で、今回のターゲットは我が校自慢の(イケメン多し)野球部。


「えーと、今野球部はどんな雰囲気なんですかね?」

「もちろん毎日全員で勝利に向かって練習に励んでいる。」

「はい結城らしい言葉ありがとね、何か課題とかありますか?」


結城の席の前にある椅子に腰かけて、持参のメモにペンを走らす。


「あるかと言われると課題だらけだ。俺はもちろんチームにも足りない物がたくさんあるからな」

「ふむふむ」

「たとえばまだまだバッティングの効率を良くできるし、守備ももっとより優れたものに近づけることができる」

「ふんふん」

「それに後輩の面倒もまだあまり見れてないから、俺たちがいなくなるまでにそこももっと教えて…」

「そ、そのへんにしとこうか」

「まだまだあるが」

「こっちも質問まだまだあるの!」

「む、」


普段あんまり喋らないしド天然だから油断してたけど、結城、こいつ結構クセ者かも。


「野球に関する事はこの辺にして、結城に寄せられたアンケートいきまーす」

「アンケート?」

「そ、事前に募集しておいたの」


やっぱり野球部は人気があるみたいで、結城に限らず小湊や伊佐敷、後は二年生の御幸くんが圧倒的で倉持くん、降谷くんもちらほら…。

残念ながら女子からの質問が多くルックス重視だからか、増子や丹波への質問はほぼ無い。どんまい。


「好みのタイプは?」

「…何かにひたむきに頑張っていると、心が惹かれる」

「あ、答えちゃうんだ」

「答えるところじゃなかったか?」

「いやいやいや」


さすが結城。予想のナナメ上を行く奴だ。



「告白するなら何て言う?」

「…それ、答えなきゃだめか」

「できる限りお願いします」

「恥ずかしいんだが」

「うーん、やっぱそーだよねー」

「…好きだ」

「へ!?」


半ば諦めかけたところにまっすぐ目を見て言われた。思いがけず顔が火照る。


「と、言うと思うんだが…」

「あ、あぁ、アンケートね」


あたしとしたことが動揺してしまった。ちょっとガッカリ、なんて。


「じゃあ最後、告白されるならどんなシチュエーションがいい?」

「難しいな」

「確かにちょっと細かいよね」


ぴらっとアンケートをめくって、差出人の名前を見て笑った。この質問書いたの、伊佐敷じゃん。


「何やってんの、あいつ」

「…椎名は」

「ん?」

「椎名はどういう状況で告白されたいんだ?」

「あ、あたし?」

「うむ」


一人で笑っていたら急に自分に振られてちょっと焦った。そういやそんなの考えた事なかったな、まぁてきとーに答えてやろう。


「やっぱ放送部だから、全校生徒が聞いてる放送で名指しで好きだって言われたら嬉しいかな、なーんて…」

「なるほど」


冗談半分で言ったのに結城は考え込んでしまった。何か本気にされたらされたで恥ずかしいんだけど。


「俺は、あれだな」

「え、どんなの?」

「俺が外野席に座っていて、ホームランボールが飛んできてキャッチしたら好きだ、と書いているんだ」

「…一体いくつの奇跡が重なったらそんな状況になるのかな?」

「む、」

「しかもあんた男でしょ、相手も男でどーすんのよ」

「そういえばそうだな…」


呆れた、ほんと。

でも真剣に悩んでる結城が可愛いから、あたしはついニヤニヤしてしまう。


「ま、いいや、ありがとね!明日の放送楽しみにしてて!」


言い残して、あたしは結城の前から席を立った。








翌日の昼休み、チャイムと同時にあたしは放送室へ行こうとした。


ビチャッ


「わわわ悪ぃ!椎名!」


伊佐敷にぶつかって、持ってた花瓶の水をブラウスにぶちまけられた。顔に似合わず毎日、花瓶の水を取り替えているらしい伊佐敷。


「顔に似合わずは余計だ!」

「あ、ごめん声に出てた?」

「思いっきりな!いや、つーかお前大丈夫か!?」


おかげさまでブラウスはびちょびちょだった。でも、今から放送だし、急いで行かなきゃ。


「大丈夫!あたし行くね」

「でもお前よ、し、下着がよ…」

「え」


顔を真っ赤にした伊佐敷があたしから目をそらす。急いで自分の胸元を見ると、ピンク色が透けていた。


まじか!!


「これ、使いなよ」

「小湊!」


いつのまにやら現れた小湊が、自分の上着をあたしにかけてくれた。大魔王様は、いざってとき優しい。


ピュー


「あ、ごめん、遊夜」


そう思ったのも束の間、小湊は持っていた牛乳パックの腹を押した。ストローからあたしの頭に牛乳が降り注ぐ。

「ちょっとー!わざとでしょ!」

「だってさっき遊夜、俺のこと大魔王とか思ってたでしょ」

「な、何で分かんの…ってゆーか牛乳はひどいだろ!」


あぁ、こんなことしてる場合じゃないのに。でも制服は透けてて頭には牛乳かぶってて、何なんだあたし。

とにかく、放送室に行かなきゃ…



ピンポンパンポン♪


「……え?」


お昼の放送のチャイムが鳴った。あたしはまだ放送室に行ってないのに、何で?誰が操作してるの?



『…ガガ、ピー……あー、これより青道高校放送部、お昼の放送を始めます』


それは、あたしが言うはずだったセリフ。

そして、マイクを通して聞こえてくるこの声は、


「ゆ…うき…?」


何で結城が!?



『今日の担当は、野球部、結城哲也です。よろしくお願いします』



うわ、こいつ自分で野球部って言いやがったよ。放送部ジャックしてんのモロバレじゃん。





『えー、3年B組椎名遊夜さん。好きだ、付き合ってほしい』




…………は?




周りから、キャーッと言う女の子の悲鳴や、歓声、いろんな声が聞こえるけど。


あたしは、ポカンと口を開けたまま。




『では、お昼の放送を終わります』


ピンポンパンポン♪



まるで何事もなかったように終わりのチャイムを鳴らして、放送が切れた。ちょっと待って、これ、どーゆうこと、


「…結城のバカヤロー!」


ペタンと座り込んでいたあたしは立ち上がり、放送室に向かって一目散に駆け出した。

すると途中の廊下で、教室に戻る途中の結城とバッタリ行き交う。


「結城!今の…っ」

「お前が告白されたい状況というものをやってみたんだが、」


どうだ?、と真顔で聞かれて、あたしはもう立ってもいられなくなった。そのまま結城に寄りかかる。


こいつ、昨日のあれ本気にしてたんだ?


何かもうだめだ、許す。ってゆーか可愛いし、かっこいいし、何よりも嬉しい。


「どうもこうもないよ、バカ」

「…椎名、服が冷たい、濡れてるのか?それに、牛乳の匂いがする」


抱きついたら、クンクンと鼻を寄せられた。嗅ぐな!と叫んで思わず距離をとる。


「…それ、亮介の上着か?」

「あ、うんサイズぴったし…」

「だめだ、これを着ろ」


結城はあたしの着ていたブレザーを脱がして、自分のブレザーを着せてくれた。ダボダボだけど、心地いい。


「…ねぇ、これあげる」


あたしはスカートのポケットから新品の野球ボールを取り出して、結城に手渡した。


そこには昨日マジックで書いた、『好きだ』の文字。


「これは…」

「あたしホームラン打てないし、これで許してよ」

「…同じ事を考えていたのか」

「みたいだね」


あはは、と笑って、あたしはもう一度大好きな人に勢いよく抱きついた。



「ほんと、最高!哲大好き!」

「…俺も大好きだ、遊夜」


照れくさそうに、哲はあたしのことをぎゅっと抱きしめた。


















(てか、こんな事して先生に怒られないの?)
(それなら大丈夫、俺たちがちゃんと許可とっといたから)
(ナメんじゃねぇぞ、オラァ!)
(やっぱり小湊と伊佐敷も共犯者だったんだね…わかってたけど…)



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