「ねぇ純お願い、脱いで…?」
「遊夜…」
上目遣いで純を見つめると、純は恥ずかしそうに目を逸らした。
「お願い、あたし、純しか考えられないの」
「んな事言われても…」
ドクンドクン、鼓動がよく聞こえる。あたしは純のブラウスのボタンに手をかけた。
「ねぇ、純…」
「……っ
俺にヌードモデルなんてできるかぁぁぁだらっしゃぁぁぁぁぁ!!」
純が吠えると、ちぇ、やっぱりダメかぁ、とあたしは小さく舌を鳴らした。まぁ分かってた事だけどさ。
「純ケチだなぁ、いいじゃんちょっと脱ぐくらい。彼氏なんだし」
「うむ、減るものでもないしな」
「亮介!哲!お前ら他人事だと思いやがってぇぇ!」
楽しそうにする小湊と、真剣に考え込む結城。いくら大好きな彼女に頼まれても、さすがにヌードモデルはそう簡単に頷けるものではないんだろうな。
そう、かもしれないけど。
「純はあたしの事好きじゃないんだ?」
「何でそうなるんだよ!」
「あたしが他の男のヌード描いてもいいわけ?」
「それは…やだけど…」
はぁ。もー何なのこいつ。可愛いんだから。
強面のくせに可愛いって何なの。そのギャップがドツボ過ぎて好きでたまんないんだっつの。
「あたしも純しか描きたくないの。だから、描かせて?」
美術部のあたしに課せられた今回のテーマは何を隠そう『男のヌード』である。こんなのを頼めるのも彼氏の純しかいない。
「それとこれとは話がちげーんだよ!」
「別にいつものやっちゃった勢いの後に描いたらいいんじゃないの、ちょうど服着てないし」
「喋んな亮介ぇぇぇ!」
「何をやっちゃうんだ?裸で」
「哲も黙れぇぇぇ!」
「そうだ、そうしよ!」
小湊ナイスアイディア!とあたしは言って、手をパンと叩く。
「おま、何言って…」
「ねぇ純、えっちしよ」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
だって、そのままだったら何も不自然なく裸じゃん。純も気持ちよくなれるしギブアンドテイク!ばっちりじゃん!
「いやなの?」
「や、いやじゃねーけどよ…」
「でも椎名、一つ問題があるよ」
「何よ小湊」
「それだったら描いてる椎名も裸だよね?」
「あ」
確かにまぁ、そうなる。
「それはダメ、却下」
「何でだよ!」
「そんなエロい構図ダメなの!」
ヌードモデルを描いてる人もヌードなんて、そんなのちゃんちゃらおかしいじゃないの。
「じゃああたしだけ服着直す」
「ずりぃ!」
「純は着ちゃだめだよ」
「…分かったよ、描かれてやる」
「え、本当!?」
「ただやった後にお前に描ける体力が残ってたらな」
「え、」
あたしが思わず固まると、純は意地悪くニヤッと笑った。
「いつもみたいに優しくなんてしてやんねーぜ?」
今度の休みが待ち遠しいような、待ち遠しくないような、あたしは微妙な気分になった。
(やるとかやらないとか、優しいとか優しくないとか何の話だ?)
(哲、お前はそれでいいんだよ)
(何言ってんの結城、何ってナニの話に決まってんじゃん)
(遊夜!お前仮にも女だろ!)
(ナニってナニの話って何だ)
(哲、お前まじか…)