今日は楽しみにしてたはずの学祭、なんだけど。
青道で一番の美男美女を決める、ミスコンミスターコンに出なければいけないあたしはとっても憂鬱。
「ねぇねぇじゅーん!じゅんってば」
「何だようるせーな!」
「このカッコどう思う?」
衣装であるワンピースを着てくるりと一回転すると、クラスメイトの伊佐敷純はぐるんと勢いよく顔を背けた。
「えっそんなダメ?!」
「だ、だだだだめじゃねーよ!!」
「うん、可愛いよ遊夜」
「亮介はお世辞かどうか分かんないよ〜〜っ」
「失礼だよ」
自分と同じくらいの身長の亮介に思いきりチョップをいれられた。
でもそんなこと気にならないくらいに、あたしはド緊張。
「何であたしがこのクラスの代表なの、もうほんとやだ」
「そりゃ、遊夜が可愛いからでしょ」
「ええ〜〜」
可愛いなんて、人それぞれの好みじゃん!あたしが可愛いって思ってもらいたい人は1人だけなんだけど。
その人はあたしに一度も可愛いなんて言ってくれたことはない。
「純、、どう思う?」
「俺に聞くな!!」
だからあたしは自信がない。
「遊夜、そろそろ時間じゃない?」
「うわ本当だ、行ってくるね!二人とも見に来てね体育館!」
「はいはい、いってらっしゃい」
相変わらず純はそっぽを向いたままで。亮介に見送られ、あたしは教室をでた。
「あ、遊夜先輩!」
廊下を歩いていると後ろからぽんと肩を叩かれる。
振り向くと、見覚えのある男の子がいた。
「えっ、と、、」
「すいません、俺野球部の御幸ッス!純さんと亮さんと同じクラスでしたよね?」
「あ、御幸くん!聞いたことある!」
「遊夜先輩、ミスコンにでるらしいですね」
「何故かね」
「そりゃ先輩、綺麗っすもん。まぁ俺もミスターコンでるんですけどね」
「えっ」
純の後輩がミスターコン!確かに、メガネが似合うイケメンだもんな。
さらっと綺麗とか言ってくれるし、純とは大違い。
純なんか髭だし極悪ヅラだし、ミスターコンなんて絶対でない。
「俺、遊夜先輩のこと応援しますね」
「御幸くんもでるんだから頑張りなよ」
「ガラじゃないんですよ、正直」
御幸くんと話しているうちに体育館に着いて、あれよあれよと言う間に始まった。
一年生から順番に舞台上並ばされる。
こんな目立つ場所普段立たないし、緊張する。よく見ればまわりはかっこいい人や可愛い人ばっかりだし。
「遊夜先輩っ」
二年生の列から御幸くんが手を振ってくる。
余裕だな、御幸くん。野球に比べたらこんな状況、全然緊張しないんだろうなぁ。
感心していると二年生の番になっていたみたいで、御幸くんがマイクを持って喋り出す。
「二年B組、野球部の御幸一也です」
きゃーっと黄色い声援が聞こえる。友達いないって聞いてたけと、人気あるんだ…
「好きな女の子のタイプは遊夜先輩です!」
って、はいいいい!!??
突然の御幸くんの告白に、黄色い声援が一気に悲鳴に変わる。
「ちょ、御幸くん、何言って、、」
「ごるぁぁぁぁぁ御幸ぃ!!!」
焦るあたしの声を遮る、一際目立つドス黒い怒鳴り声。
あたしの大好きな人の声が、客席から聞こえてきた。
「てんめぇ遊夜に手ぇ出したらぶっ殺す!!!」
「純!」
大勢の人の中で、純が真っ赤になって怒鳴っているのだけが見えて、あたしまで釣られて赤くなる。
「純さんの彼女じゃわけじゃないんでしょ?」
なぜか、マイクを通して応戦する御幸くん。
待って、ここ体育館。
みんな見てる、みんな聞いてるんだけど!!!
何百人もの視線が、一つに集まる。
「まだ彼女じゃねーだけだ!俺ァお前よりずっと前から遊夜が好きなんだよバカヤロォ!!」
マイクよりもずっと響く純の声が、体育館に響き渡った。
その瞬間、体育館が静まり返る。
あたしも、思わず言葉を失った。
今、純、なんて言った、、?
あたしを、好きって、、?
あたしはたまらず御幸くんからマイクを奪い取り、自分の口元にあてた。
「あたしも、、あたしも純が好き!」
叫んだ瞬間、耳がつんざくような歓声が体育館中に上がった。
あたしの視線の先には、真っ赤になった純。
まわり見えてなかったけど、あたしとんでもないことしちゃった、、?
「ははっ、遊夜さんも純さんもサイコーっす!」
御幸くんはお腹を抱えて笑っていた。我に返ったあたしは思わず固まる。
「遊夜!!」
名前が呼ばれたほうを見ると、舞台のすぐ下に純がいた。
「だからヤだったんだよお前がミスコンでるとかよ!!」
「へ、、」
「俺ァ、遊夜を死ぬほど可愛いと思ってるんだからよ!!」
「……っ」
気にしてたのに。気にしてたのに。
純はあたしのことなんか可愛いと思ってないって。
どうしよう、すっごく嬉しい。
「オラ、こいよ!」
舞台の下で両手をひろげる純に、あたしは勢いよく飛び込んだ。
(御幸、損な役回りご苦労様)
(ははっ全校生徒の前で当て馬って俺!)
(人の恋路の邪魔したら馬に蹴られて死んじゃうよ?)
(…亮さんって純さんのこと大好きでよね)
(うるさいよ御幸)
(ちょ、痛いっす!)