倉持、うまくいったのか?
何で俺がこんなに後押ししてやってんのにうまくいかねーのかね。
つーかあんまあいつがボーッとしてるようなら、俺が…
「…おはよ、御幸」
「遊夜ちゃん!」
俺は昨日気を利かせて、風邪で休んでいる倉持の様子を遊夜ちゃんに見にいかせた。
けど結局、遊夜ちゃんはそのまま教室へは帰って来なかった。恐らく寮に行ったその足で家に帰ったんだろう。
「昨日何で午後サボって帰ったんだよ?」
「…う、ん」
「うんって、どうし…」
歯切れの悪い返事に思わず顔を覗いて、俺は目を見張った。
遊夜ちゃんが、泣いていたから。
「何かあったのか?」
「別に、何もない」
「嘘つけ、泣いてんだろ」
「泣いてない」
少し赤くなった目を伏せて、ズッと鼻を鳴らす遊夜ちゃん。
おいおい、それで泣いてないなんてよく言えるな。
「倉持と何かあったのか?」
「倉持じゃ…ない」
「じゃあ他に誰…あ、」
『確か、亮さんの』
『ちちち違うから!やめてよね倉持!』
もしかして、
「亮さん?」
「!」
遊夜ちゃんはずっと俯いていた顔を上げた。目を見開いて、溜まっていた涙が零れ落ちる。
ビンゴ。
「遊夜ちゃん、亮さんと知り合いだったんだ」
「ちょっと、色々あってね」
「好きなのか?亮さんのこと」
「……え」
俺の言葉に遊夜ちゃんはきょとんとして、黙り込んだ。
何だ?この反応。
「どうした?」
「好き」
「え、」
「好きだったんだあたし…亮介くんのこと」
もしかして、今気付いたのか?
「どうしよう、今更…もう遅いよ…っ」
はらはらと、顔を両手で覆って泣き出した。
思わず俺は遊夜ちゃんの頭に手を乗せようとして、寸前で止めた。
今ここで触ったら、俺が今まで自分の気持ちを隠してきた意味がない。
「遅くなんかねーよ」
「え?」
「今気持ちに気付いたんだろ?じゃあむしろ始まったとこじゃん」
「でも、倉持のこともあるし、」
「遊夜ちゃんは遊夜ちゃんの気持ちを優先すればいい」
「御幸…」
遊夜ちゃんは泣きながら俺に抱きついてきた。
まじか!
やべぇ!これは耐えれるか?俺!
「でもあたし、亮介くんに嫌われたもしれないよ!倉持のことも、きっと傷付ける!どうしたらいいのか全然わかんないよ、御幸ぃ…」
俺のシャツが涙で濡れる。
いつも強気なこいつが、こんな風になるなんてな。
それだけ、亮さんのことも倉持のことも大切に想ってるんだろう。
「…んなの簡単だよ」
抱きしめるようとする手を必死で押さえつけ、代わりに遊夜ちゃんの体を引き剥がす。
理性を保ち、目を合わせて微笑んだ。
「今思ってること、そのまま伝えたらいいんだよ」
「…それでいいのかな」
「それしかねーよ、頑張れ遊夜ちゃん」
「…ありがと、御幸」
遊夜ちゃんは涙で濡れた目を細めて、笑った。
俺は思わずため息をつく。
ほんと敵わねーよ、こいつには。
「行ってこい!」
ドン、と背中を軽く押すと、足早に教室を出て行く遊夜ちゃん。
俺はその後ろ姿に、少し胸が苦しくなった。
「…ほんとバカだな、俺」
好きだった。本当は。
けど遊夜ちゃんが俺を好きじゃない事はすぐに分かったし、倉持を応援すると決めていた。
何よりも遊夜ちゃんを応援しようと決めていた。
だから、これでいいんだ。
君が幸せになれるなら。