翌朝ため息をつきながら、トボトボとあたしは学校に向かっていた。

脳はとっくにキャパオーバーして煙がふいてる。それくらい混乱してた。


「…どうすればいいんだろ」



倉持は、嫌いじゃない。むしろ好き。

良い奴だし、ぶっきらぼうだけど優しいし、意外と紳士だし、付き合ったら絶対大切にしてくれると思う。


でも、でも。



亮介くんのことが…どうしても引っかかる。


出会ったばかりなのに、どうしちゃったんだろう、あたし。



「おはよ、遊夜ちゃん」

「おはよ御幸…あれ、倉持は?」

「あぁ、あいつ風邪」

「風邪!?」

「熱ある癖に無理して朝練出るからぶっ倒れやがって、今頃寮で爆睡してるよ」

「何それ、大丈夫なの?」

「ま、大丈夫だろ」


倉持、休みか。ちょっとホッとした。

にしても、バカは風邪引かないって言うのに。大丈夫なのかな。しかも寮なんて誰も看病してくれないんじゃ…


「心配?」

「え、いや、別に…っ」

「素直じゃないねー」

「ちがうってば!」

「はいはい」


もう、御幸ったら。

確かに心配だけど、御幸にバレるのはなんか嫌だ。気に食わない。









あっという間に昼休み。

いつも寝ているはずの午前中の授業も、倉持の体調が気になって一睡もしてない。


ほんとに大丈夫なのかな。生きてんのかな。様子見に行きたいな。でもそんなこと……


「あーどうしよー超困ったー」

「は?」

「やべー誰か助けてくんねーかなー」

「なに、どしたの御幸」

「ややっ遊夜ちゃんちょうどいいところに!」

「いや席隣だからね」

「倉持の様子見に行かないとなんねーんだけど、俺今日中にこのスコアブック読破しねーといけねんだよな」

「…え」

「遊夜ちゃん代わりに行ってやってくんね?」

「……」

「お願い!」

「…うん、いいよ」

「さっすが遊夜ちゃん、サンキュー!」

「じゃあ行ってくるよ」


ガタン、と席から立ち上がりあたしは駆け足で教室を出た。


「…ったく、俺ってほんと損な役回りだよ」












「お邪魔しまーす…」


5号室という札が貼られたドアをあけてそっと中に入る。

真っ暗だけど、少し蒸し暑い。

辺りを見回すと、二段ベットの上からゴホゴホとむせる声が聞こえてきた。


「倉持、いるのー?」


音をたてないようにはしごを登り、ベッドの中を覗きこむ。

そこには、少し荒い呼吸で汗をびっちょりかいてぐったりと眠っている倉持がいた。


…苦しそう。


お見舞いに買ってきた冷えているスポーツドリンクを、倉持の額にぴたりとつけてみる。

それを合図に、ずっと瞑っていたはずの目がゆっくりと開いた。


「あ」


やばい、起きちゃった。


「…遊夜?」

「おっす、倉持」

「お前、何してんだよ」

「あー、御幸が…」


御幸が代わりに行って来いって言ったから……?

ちがう。あたしは自分の意思でここに来たんだ。


「御幸から倉持が倒れたって聞いて、心配だったから」

「…心配」

「そう。迷惑だった?」


ごめんね、と言うと倉持は顔を片手で覆い隠して黙り込んでしまった。


「どうしたの?」

「……だよ…」

「なんて?聞こえない」

「…嬉しいんだよ、バカヤロー」

「…っ」


真っ赤になった倉持につられて、あたしまで体温が上がる。

風邪が心配ですっかり忘れてたけど、そういえば告白されてたんだった。そんでキスもされてたんだった。


「遊夜」

「…なに」

「俺やっぱ、お前のこと好きだ」


ガチャ

突然の扉の開閉音、そして真っ暗な部屋に外の光が差し込んだ。


驚いて勢いよく振り向くと、そこに立っていたのは紛れもない


「…亮介くん」


何で、ここに。


「倉持の様子見に来たんだけど…ごめん、お邪魔だったみたいだね」

「亮さん!」

「お見舞いここに置いとくから、それじゃあお大事に」


亮介くんは持っていたスポーツドリンクを玄関前の床に置き、そのまま踵を返して部屋を出て行った。


待って、待って、待って。


「おい、遊夜!?」


倉持の声を背に、あたしは走り出していた。


行かないで、亮介くん。



「亮介くん!!」


大声で叫ぶと、先を歩いていたピンク頭の青年は足を止める。

こっちを振り向かずに。


「…遊夜ちゃん?」

「あの、これは違…っ」

「別に俺に弁解しなくていいよ」

「でも、」

「倉持、良い奴だよ」

「…え」

「口は悪いけど優しいし、あいつの彼女になったら絶対幸せになれる」


知ってる。知ってるよそんなこと。

それでもあたしは。


「亮介くんは、あたしと倉持が付き合ったらいいと思うんですか?」

「…そうだよ」


心臓が痛い。

胸がキリキリと軋む。


ねぇ、本当にそう思っているならどうしてこっちを見てくれないんですか。



「じゃあ俺教室戻るから、遊夜ちゃんも早く戻りなね」

「…っ」


「ばいばい」



ばいばい。その言葉を最後に、もう二度と亮介くんに会えない気がした。







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