「どっちにしよー…」


夜、どうしてもアイスが食べたくてあたしはコンビニに来ていた。



某メーカーのお高いアイスクリームにするか、お値段二桁の手頃な棒アイスにするか……悩んでる。


財布の中身とにらめっこして結局棒アイスに決定。本コーナーから毎月買っている雑誌を取ってレジに向かう。



「いらっしゃいませー」


会計をしていると、カランコロンと扉が開く音が聞こえた。


「あれ、遊夜ちゃん?」

「…え」


名前を呼ばれて振り向くと、そこにいたのは、


「亮介くん…と、倉持?」


なんて、会いたくないコンビ。


「こんな時間に一人でどうしたの」

「あ、や、ちょっとアイスを」

「みんな考える事は同じだね、倉持」

「え…あ、そっすね」

「……」


気まずい空気が流れるあたしと倉持を、亮介くんは不思議そうな顔で見つめた。


「倉持、俺のアイス買っといて」

「亮さんどうするんすか?」

「遊夜ちゃん送ってくるから」

「え!大丈夫ですよあたし…近いし!」

「だめ、もう遅いしね」


行くよ、と亮介くんは先にコンビニを出た。あたしも急いで追いかける。



無言でてくてく亮介くんの隣を歩く。亮介くんも何もしゃべらない。なのであたしからもしゃべれない。

なんか、怒って、る?

よくわかんないけど。


「……」

「……」



…気まずい。


でも何しゃべったらいいかわかんないし、亮介くん何もしゃべってくれないし。



「…あ、家ここです」

「もう着いたんだ、ほんとに近いね」

「送ってくれてありがとうございました、じゃあここで…え、」


べこっと頭を下げてから顔を上げると、すぐ目の前に亮介くんがいた。

思わず後ずさるあたし。



「あ、の」

「ん?」

「近く、ないですか」

「気のせいじゃない?」


気のせいじゃない!


あたしと亮介くんの距離は、ほんのあと数センチ。

さっきの倉持とのキスが、思わず頭をよぎる。


「やっ…」


どん、と反射で亮介くんの肩を押した。縮まった間隔が広がる。

既にあたしの頭はいっぱいいっぱいだった。


「すみませ、つい…っ」

「遊夜ちゃん、倉持と何かあった?」

「…え」

「二人とも様子おかしかったじゃん」

「そんなこと、」

「キスでもされた?」



息を呑んだ。


何で知ってるの?



「ごめんね、カマかけて」

「……っ」

「遊夜ちゃんはほんと分かりやすいんだから」


クスクスと笑って、また亮介くんの顔が迫ってきた。拒むように、あたしの足は自然と後ろへ動く。


気付いたら、あたしの背は玄関近くのフェンスに当たるくらいまで追いやられていた。

かしゃんと、柵を掴む音が静かな夜の街に響く。


「ちょ、」


そのまま亮介くんの顔が近づいてきて、あたしはぎゅっと目を瞑った。


キス、されるの?




「…ごめん」


息がかかるくらいまで距離が近くなったと思った。のに、亮介くんはパッと顔を背けた。


今、どんな顔してるの?

こんなの亮介くんらしくない。

いつももっと余裕なくせに。



「もう帰るね、俺」

「ちょ、ま…っ」

「遊夜ちゃんも早く家入りなね」



じゃあね、と言葉を残して亮介くんは学校に向かって去って行った。


取り残されたあたしは、ぽつんと玄関前に立ち竦む。


足がガクガクと震えた。

どうしたらいいのか分からない。

重なりそうになった唇を手で覆うと、あたしの顔は急激に熱を持っていた。








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