好き?倉持があたしを?
信じられない。だってそんなの聞いたことなかったし、知らなかった。
ずっと友達、だった。
そう思ってたのはあたしだけだったの?
屋上から教室に戻ったあたしは、自分の席からスクールバックをとってもう一度廊下に出た。
もう帰ろう。このまま教室にいても倉持が戻ってくるだろうし、気まずい。
「何してんの遊夜ちゃん、帰んの?」
「御幸、」
「まだ昼休みだけど」
「あー…ちょっとね」
「何かあった?」
「……」
「倉持だろ」
「あんた何でも分かるんだね」
「当たりかよ」
「…鋭すぎ」
「ははっ、ありがと」
「今の嫌味なんだけど」
「コラコラ」
あたしは小さくため息をついて、たまたま遭遇した御幸と並んで玄関に向かって歩き出す。
「ねぇ、御幸は知ってたの?」
「ん?何が?」
「…分かってるくせに」
「えー俺全然わかんない」
「だから、あれよ」
「あれって何?」
「…その、倉持が、あたしを」
「あぁ倉持が遊夜ちゃんを好きだってこと?」
「分かってんじゃん!」
「告白された?」
「…キス、された」
「…え、まじすか」
「まじす」
「ま、あいつもずっと片想いしてたからなー」
「そんなの全然しらなかった」
「鈍いね、あいつ結構分かりやすかったよ」
「…あたしのどこがいいんだろ」
「いきなりどうしたの」
「だってあたし愛想ないし、基本冷めてるし、可愛くないし」
こんなあたしのどこを倉持は好きになったのかな、と言うと御幸はいつもの調子で笑いだした。
「女の子らしくないの、気にしてんだ?」
「…そりゃね」
「可愛いじゃん」
「はぁ?」
「自分で気付いてないかもしれないけど遊夜ちゃん可愛いよ、もちろん見た目もだけど、中身もね」
「…うっそだー」
「少なくとも倉持も俺も、そう思ってるから」
「……」
「玄関ついたよ、帰んないの?」
「…帰るよ」
何だか、調子狂う。
あたしは下駄箱から自分のローファーをカタンと地面に落として、履き替えた。
「じゃあ遊夜ちゃん、また明日ね」
「…御幸」
「ん?」
「…ありがとね」
じゃあ!と言い残して、あたしはその場から走り去った。
「……やべ」
ずりーよ、遊夜ちゃん
御幸の呟きは、あたしには聞こえないまま。