ったく遊夜のヤロー、珍しくからかってやったら拗ねやがって。

そんなとこも可愛いんだけどよ。



遊夜が出て行った扉をずっと見つめていたら、御幸がニヤリと笑ったのが目に入った。



「…なぁ、倉持」

「あ?」

「そんなに気になるなら行ってこいよ、保健室」

「ばっ、別に気になってねーよ!」

「はっはっは、超ソワソワしてるくせに」

「してねぇー !」

「言い方変えてやろーか」

「は?」

「そんなに心配なら見に行ってこいよ」

「…ついてくんなって言われたじゃねーか」

「ははっ、気にしてんのかよ」

「うっせ」

「素直じゃねーな、行ってこいって」


どん、と御幸に背中を押されて俺は歩き出した。そして自然と駆け足になる。


廊下を走るな!とすれ違う度に言ってくる教師に、すんませーんと軽く返す。だけど反対にどんどん足は速くなった。






あっという間に、俺は保健室の前に到着。

扉を開こうと取っ手を掴んだその時、



「…遊夜ちゃんは…」



中から声が聞こえて、思わず止まった。




誰か、いる?

誰かといるのか?



耳を済ますと、明らかに保健医ではない声と、遊夜の声が聞こえる。やけに胸がざわついて、部屋に入る気にならない。



スモークガラスの窓からは何も見えない。音をたてずに少し開いた扉の隙間から中を覗いてみて、



「……亮介くん」

「できるじゃん」





俺は、目を疑った。




そこにいたのは亮さんと、俺が今まで見たこともない顔をしている遊夜。


二人って知り合いだったのか、なんてことどうでもよくて、ただ遊夜の表情だけが頭にこびりついた。

顔を赤くして、亮さんに頭を撫でられて、くすぐったそうに目を細める。


そして、とても愛しそうに亮さんを見ていた。





あんな遊夜知らねぇ。



俺の知ってる遊夜はいつもポーカーフェイスで、何にも興味なさそうに、いつもつまんなそうにしてる。

それもどこか魅力的で、俺は惹かれた。



けど。




「…っむかつく」



初めて見るそんなポーカーフェイスを崩した遊夜は、悔しいけどすげー可愛いと思った。


俺はあんな顔をさせる事ができない。それでもそんな遊夜は今まで見てきたどの遊夜よりも綺麗だった。






結局俺は保健室には入らずに、その場を後にした。







「あれ、倉持早かったな」


教室に戻ると御幸がスコアブックをぱらぱらとめくっていた。

かけてくる声にも、あまり反応できない。


「…おー」

「なに、何かあったのか?」

「別に何もねーよ」

「…あっそ」



変に鋭い御幸は俺が遊夜を好きなことを当たり前のように知っているし、分かっててからかってくる。

けど異様に落ち込んでいる俺に、それ以上何も聞いてはこなかった。





結局昼休みになっても遊夜は戻って来なくて、早々に昼飯を食べ終えた俺は校内をぶらついていた。

何となく足が向かったのは屋上で、立ち入り禁止の札を飛び越えて扉をひらく。



「…遊夜?」

「あ、倉持おっすー」


屋上に出たすぐ横の壁を背もたれにして、ぺたんと足をのばして座っている遊夜がいた。

狙ったようなタイミングだ。



「お前、こんなとこで何してんだよ」

「さすがに朝4限全部は保健室こもれなくって、追い出された」

「教室戻って授業受けろよ」

「んー何かそんな気分じゃなくて」


ここに隠れてた、とけろっと言い放つ。

自由気ままに周囲の目線を気にも留めず、とても奔放に生きている遊夜が俺はたまに羨ましくなる時がある。


「そっか今お昼休みか、どうりでお腹すくと思った」


遊夜はその辺に落ちているプリントを拾い上げて折り始めた。何をしているのかと思えば、紙飛行機だ。

出来上がったそれを音も立てずに放すと、空高く飛んで行った。



「わ、凄い、倉持見た?」

「見た、飛んだな」

「あたし紙飛行機折るの得意なんだよね」

「ガキか」

「でも凄いでしょ、凄くない?」

「はいはいすげーすげー」


紙飛行機が消えて行った空を指差す遊夜の頭を撫でてやると、無邪気に笑った。


笑顔はレアだ。

たまに笑う遊夜の顔はとても可愛くて、それだけで満足なはずだった。






亮さんに向けられた、あの顔を見るまでは。





「…? どしたの、」


黙り込む俺に不信感を抱いたのか遊夜は声をかけてきた。その細い腕を、ほぼ反射で引っ張りあげる。


俺は立ったまま腰を屈めて、遊夜の唇に自分の唇を押し付けた。




「好きだ」


離した瞬間、驚いて目を見開く遊夜に向かって言い放つ。


「…誰が誰を」

「俺が遊夜を」

「いつから、」

「ずっと前から」

「…今、何した?」

「キス」



遊夜は呆然として、自分の上唇を指先でなぞる。


「…ごめん、ちょっと一人にして」



ずっと床に座っていた状態から立ち上がり、ふらふらとした足取りで屋上から出て行った。


一人取り残された俺は思わず壁に背中を預け、そのままずるずるとしゃがみ込む。


「…やべぇ、やっちまった」



もう、後戻りはできない。





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