「何だったの、あれ…」



昨日から、亮介くんのことが頭から全く離れてくれない。出会ったばかりなのにどうして。


知らないあたしのためなのに、優しかったな。

ホントにストレートティーなんか飲みたかったのかな。

部活中なんだからスポーツドリンクとかが良かったんじゃないのかな。

笑った顔、かっこよかったな。

でも絶対、あの完璧な笑顔には裏があるんだろうな。

仲良くならないと知れないんだろうな。

仲良く……



「仲良くなりたい、なぁ…」



「ヒャハ、朝から何死んでんだよ遊夜」

「あ、倉持おっすー」

「顔上げろよ、テキトーか」


自分の机に突っ伏したまま応えると、倉持に頭をべしっと叩かれた。

そのままあたしの前の、自分の席に腰をおろす。


「んー」

「何、なんか悩み事か」

「んー」

「何があったんだよ」

「んー」

「てめ、話聞いてんのか!」

「聞いてない」

「そこは答えんのかよ!」

「倉持朝から元気だね」

「誰のせいだと思ってんだ」

「えっあたし?」

「本気でびっくりすんな!お前以外に誰がいんだよ!」

「へー」

「テンション低っ」

「あんた今日テンション高いよ」

「…それ朝練とき亮さんにも言われた」



亮さん。その言葉に思わず反応して、ずっと机に沈めていた頭をあたしは勢いよくあげた。

それに驚いたのか倉持は肩をビクリとさせてからこちらを見つめる。


「どしたんだよ、急に」

「今、亮さんて…」

「あぁ野球部の先輩だけど、何かあんの?」

「い、いや?何もないけど」

「ふーん、変な奴」

「うるさいな、ねぇ倉持は何で朝からテンション高いの」

「ほっとけ」

「いーじゃん、教えてよ」

「…お前昨日練習みにきてたろ」

「うん行った」

「それってさ、もしかして俺のこと見に…」


「遊夜ちゃん、昨日俺のこと見にきてくれてありがとー!」

「あ、御幸おっすー」

「おっすー」

「まぁ別に御幸見に行った訳じゃないけどね」

「えっ、てっきり俺目当てかと」

「どっからくるのその自信」

「じゃあ誰目当て?」

「友達の付き合い目当て。キャプテンにメロメロなんだよねーその子」

「げっ、哲さんか」


「御幸!てめぇ腕どけろ!」

「え、なんて?倉持くん」

「う、で、ど、け、ろっつってんだよ!」



突然現れた御幸は、倉持の頭の上に腕と顎を乗せていた。

倉持は御幸の腕をばしばし叩いている。



「二人ともほんと元気だよね」

「遊夜ちゃんがクールなんだよ」

「さっき珍しく動揺してたよな」

「は、まじで?何の話で?」

「確か、亮さんの」

「ちちち違うから!やめてよね倉持!」

「うわほんとだ、遊夜ちゃんがどもってる珍しい」

「だろ?」

「…っうるさい黙れボケ共!」



からかわれるのが癪であたしは立ち上がった。ゲラゲラ笑う倉持と御幸がむかつく。生意気。

そして、亮介くんの名前が出ただけで不思議とおかしくなる自分も嫌だった。


「おい、どこ行くんだよ遊夜」

「保健室!」


ついてこないでよね、と言って扉をぴしゃりと閉める。

ちょっと授業をおサボりして保健室でおねんね、なんて高校生にはよくある事だ。





「失礼しまーす…」


そっと中に入ると、保健室特有の薬品くさい匂いがつんとする。

やけに静かだ。いつもなら保健の先生がすぐ返事してくれるはずなんだけどな。


「せんせー?」

「先生ならいないよ」

「えっ」

「いらっしゃい、遊夜ちゃん」

「小湊先輩!」


奥の丸いすに腰掛けていたのは紛れもなく、昨日会った小柄な三年生だった。


「小湊先輩って呼ぶなって言ったよね?」

「え…あ、」

「はい、言って」

「りょ、亮介…くん」

「できるじゃん」


えらいえらい、と言いながら亮介くんはあたしの頭をぐりぐりと撫でる。

あたしは自分の顔がカッと赤くなるのを感じた。


「なに、照れてんの?」

「照れてません!」

「顔赤いけど」

「赤くないです!」

「意地張っちゃって」

「…りょ、亮介くんはここで何してるんですか
?」

「あぁ、俺保健委員なの」

「先生は?」

「出張。だから当番でちょっとね」

「そ、ですか…」

「遊夜ちゃんはどうしたの?」

「いや大した事じゃないんですけど」

「女の子の日?」

「ちちちちちがいますよ!」



だめだ。普段クールなはずのあたしのキャラが崩壊してる。

亮介くんといると、どうにもペースが乱される。こんな人初めて会った。


「…何、笑ってんですか」

「別に?」



だから、ドキドキする。



「じゃあ、授業始まるから俺行くけど」

「あ…はい」

「さみしそうな顔しないの」

「してないですよ!」

「はいはい、あんまりサボってないで早く教室帰りなよ」

「…はぁい」


がらがら、ぴしゃん、と音をたてて亮介くんは出て行った。それと同時に、一人きりになったあたしはベットに倒れこむ。



「……なにこれ」


ドキドキがまだ残ってる。

ぽっかり胸に穴があいたみたいに寂しい。


なにこれ、


「…亮介くん」





こんな気持ち、知らない。








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