「よーい、」
ドン!という音と同時にあたしと倉持は走り出す。
野球部で一番の俊足、倉持洋一。そして女子ながらも陸上部で一番の俊足のあたし。
『あーアイス食いてぇ』
『あたしも〜』
『なぁ遊夜、賭けしね?』
『…足で?』
『200メートル一発勝負、買った方がアイスおごり』
『乗った』
昼休み、たまたまそんな話になって、前から足でよく競っていたあたし達はこういう勝負事に発展してしまった。
女子が男子に勝てるはずないと思うだろうけど、あたしはインハイにも何度も出てるので全国区の足は一応持っている。
「…っ!」
それでもやっぱり倉持は速い。
負けたくない。なんたって倉持はあたしのライバルで、あたしの片思いの相手。そう簡単に負けるなんてかっこつかない。
「ヒャハ!」
「むかつく…このバカモチ!」
たった十数秒の全力疾走。倉持は女のあたしにも手加減なし。まぁ、そんなところが好きなんだけど。
風を切る。気持ちいい。周りの人達はレベルの高すぎるあたし達の走りに唖然としている。
倉持は、本当に楽しそうに走る。あたしも走るのが大好き。倉持のことも大好き。今、この瞬間が楽しくて仕方ない。
でも、負けたくないけど。
ずっと隣に走っていた倉持が、少しあたしの前に出た。
やばい、負ける、
負けたくない!!
「…倉持!」
「あ!?」
「大好き!!!」
「…っはぁ!?」
ずっとハイスピードで走っていた倉持が、足を緩めた。
ダンッ
すかさずあたしは倉持を抜かし、ゴールの白線を踏んだ。
「やったーあたしの勝ちー!」
「おま…今の無しだろ!」
「勝ちは勝ちだから」
「ありえねぇ!」
気が抜けたのか、倉持はごろんとグラウンドに倒れこんだ。
「ねぇ倉持」
「…んだよ」
「本気で好き、だからね?」
「……っ!」
仰向けに寝転んでいる倉持の顔を上から覗き込んでニッコリ笑うと、倉持は真っ赤になった。
あれ?これって、もしかして、期待してもいいのかな?
「…ちっくしょ、それ、勝負に勝って俺が言うはずだったのによ」
「それって、どーゆう…」
「分かれよ、バカヤロー」
チッと舌打ちした倉持は、上から垂れるあたしの髪を引っ張って引き寄せて、唇にキスした。
(何してんの、超目立ってるよ)
(りょ、亮さん!)
(あれ、亮くんだ)
(え、遊夜知り合い?)
(従兄弟なの)
(倉持、遊夜泣かさないでね?)
(…まじかよ)