「…何してんの、哲」


あたしの席の前にしゃがんで、机の上のプリントを凝視している哲と目が合う。


「いや、うまいものだなと思ってな」

「そーかな?ふつーじゃない?」

「俺にはそんな発想浮かばないし、そんなにうまくも書けない」

「あはは大袈裟。ちょっと哲のも見せてよ」


あたし達のクラスは文化祭で喫茶店をやる。教室の飾り付けをどうするか、全員にプリントが配られて要提出。

あたしはその紙にペンを走らせている最中だった。


「…何、これ」


ぴら、と見せられた哲のプリントを見てみると、『喫茶店』と黒板に書かれて机と椅子がそのまま並んでるだけ。


「…シンプルすぎんでしょ」

「そうか?」

「もっと風船とか輪っか飾ったり、メニュー置いたり、テーブルクロスかけたり色々あるじゃん」

「!」

「何その心底驚いた顔」

「そんな考え方ができるとは…やはり遊夜は侮れん」

「侮れんて」


途端、見せっこしていたはずのあたしのプリントが、ひょいと後ろに取り上げられる。


「遊夜、凄いじゃん」

「お前こんな特技あったのかよ!」


振り向くとそこにはクラスメートの亮介と純がいた。


「人は見かけによらないね」

「余計なお世話!」


まぁ、自分でもそう思う。

あたしは、髪は茶色でピアスホールもいくつかあいてて、学校にもうっすら化粧をして制服も着崩してる。

軽くギャル。でもどうやら女子力が足りないらしくて、野球部の連中とつるむ事が多くなった。


その中でも哲は、特別だけど。



「これで決まるんじゃない?」

「えー…ないでしょ」



まさか、と言いながらその時は笑ったけど、結局その後のHRであたしの案に決定した。





「おい、椎名!」


帰りの廊下を歩いていると、担任に後ろから呼び止められる。


「何すか」

「お前髪、染めてこい」

「…何色に?」

「黒に決まってんだろうが」

「えー!もうすぐ文化祭なのに」

「文化祭だからなんだよ!」

「やだって言ったら?」

「クラスが文化祭に参加できない」

「…まじで?」

「お前のせいで学年主任から目つけられてんだよ」


担任ははぁ、とため息をついた。なんだか申し訳ない。

いつもなら黒染めなんていやだ、と突っぱねているところだが、クラスのみんなに迷惑はかけたくない。


「…わかりました」

「頼むぞ、椎名」


帰り道、あたしは黒色のカラーを買ってから帰宅した。





翌日、いつも通りギリギリに学校にいくと、朝練を終えて教室に入って行くいつもの三人が目に入った。


「おはよ、みんな」

「おー遊夜…」


振り向いて、目が合う。


「…誰だ?」

「や、あたしだけど」


純が目を丸くしてあたしを見つめる。案の定、亮介までぽかんと口をあけていた。


「遊夜髪真っ黒じゃん、初めて見た」

「柄じゃねーな!びびったわ!」

「担任に脅されたの!似合わないって知ってるから言わないでー!」

「む、似合っているぞ」

「へ」


ずっと黙ってあたしを凝視していた哲が、急に口を開いた。


「に、あってる…?」

「あぁ、可愛い」

「かわ…っ!?」


待って待って待って、今この人可愛いって言った?あの超鈍感で堅物で遊びの一つも知らなそうな哲が!?

あたしに、可愛いって言った?


「ちょっと哲、遊夜固まっちゃったんだけど」



何も言えなくなって黙り込んだあたしの目の前で、亮介がおーいと言いながら片手をひらひらさせる。

反応もできない。今、何か喋ったら顔が赤いのがバレる。


「てめーコラ!無意識が一番タチ悪ぃんだよ!」

「無意識って、何がだ?」

「だから…っ」

「遊夜は髪が茶色でも黒でも可愛いのは事実だろう」


哲の言葉に、あたしだけではなく純まで真っ赤になった。

きょとんとしている哲を尻目に、亮介はやれやれという風にため息をつく。


「ねぇ、哲って誰にでも可愛いとか言う性格だっけ?」

「そんな訳ないだろう!」

「じゃあ何で遊夜には言うの?」

「遊夜だからだ」

「だからー、それが何でかって聞いてるんでし
ょ」


亮介がべしっと哲の額を軽く叩く。

あたしはその光景を、黙ったままただ見つめているだけ。


「それは…」

「言葉にしないと伝わんないよ」

「…うむ」


な、なに?

哲は急に野球をする時の真剣な顔で、あたしに向き直る。思わず肩がビクリと震えた。


「ど、どうしたの、哲」

「遊夜」

「はい」

「好きだ」

「……え」

「好きだ、遊夜」

「えっえっ」

「むしろ愛してい」

「ちょ、ちょっとストップ!」


哲が、好き?

あの哲があたしを、好き?


……うそ。



「だってあたし、ギャルだよ」

「あぁ」

「全然女の子らしくないし、友達も男ばっかりだし…素直じゃないし」

「それでも好きだ、俺は」

「…あたしなんかでいいの?」

「遊夜以外じゃだめだ」

「…っ」


あ、やばい、何か。

涙。


「泣くな、遊夜」


哲があたしの頭をぽんぽん叩いてくれたので、反射でそのまま抱きついてしまった。


「うぅー哲すきぃー」

「俺も好きだ、遊夜」



















結城くんとデザイン企画


(良かったね、遊夜)
(お前気持ちモロバレなんだよ!)
(二人とも気付いてたの!?)
(亮介、純、もしやお前ら遊夜のことを…)
((バカップルが!))





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