「りょ、亮介……」

「なに」

「可愛いーーーーーーー!!」



今日は文化祭、あたしのクラスがやるのは男女逆転喫茶。

っていっても予算もないから男と女の制服交換するだけの超お手軽、なんだけど…、



「絶対見せたくないからシフトずらしたのに、来たら意味ないじゃん…」

「あたしが亮介の女装見逃すわけないでしょ!」


目の前にいるあたしの彼氏は、ありえないくらい女子の制服が似合ってる。


「ねぇ写真撮っていい?ねぇいい?」

「ダメ」

「何でー」

「純と撮りなよ、ほら」

「おま!友達売んじゃねぇコラ!」


あたしの目の前に差し出されたのは、クラスメートの伊佐敷。

なんてゆーか、これはこれで。


「伊佐敷も可愛いよ?」

「んなっ」

「良かったね、純」

「まぁ亮介には負けるけど!」

「ちっ、バカップルが」

「何をしているんだ?」

「あ、結城くん」


お盆を片手に持った結城くんが裏から出てきた。

結城くんがスカート履いてるよ。野球部のキャプテンがスカート履いてるよ。どーなのこれ。


「意外と…似合うね」

「スースーとして気持ちが悪いな」

「恥ずかしがれよ!」

「まぁ後輩には見られたくないね」

「御幸と倉持の野郎、来たらぶっ飛ばしてやる!」

「あいつらは来るぞ、俺が昨日ちゃんと宣伝しておいたからな」

「哲、てめぇ余計な事を…」


やっぱり先輩として、女装している姿は後輩に見られたいもんじゃないらしい。気持ちは分かるけど、売り上げには貢献してもらわないとね。


「ねぇ」

「どしたの、亮介」

「遊夜、男の制服似合ってるじゃん」

「ほんとに?」

「可愛いよ」

「…っ、ど、どうも」


不意打ちに思わず照れる。亮介は、いきなりこういう事ぶっこんでくるからずるい。


「つーかてめーら、イチャついてないで働けオラァ!」

「あたし今当番じゃないし」

「純、俺ちょっと休憩いってくるね」

「はぁ!?亮介お前…っ」

「何、なんか文句ある?」

「…ねぇよ!行って来い!」


さすが亮介。

許可をもらったあたし達は教室を出て、いざ文化祭!に繰り出す。



はず、だったんだけど…


「な、何で空き教室?」


気付いたら、誰も使ってない教室に連れ込まれていた。ただ、扉の前には人はわんさかいて、笑い声とかも全部聞こえてくるんだけど。


「ねぇ、遊夜」

「何でしょうか」

「それ、純の制服だよね」


少し黒いオーラを纏う亮介が指差したのは、あたしの着ている制服。


「あ、うん、そーだよ」

「何で俺の着てないの」

「だって、あたし別に背低くないからちっさい子に譲ってあげなくちゃじゃん」

「俺は遊夜の着てるよ」

「え、何で!?だってこれ交換制だし純に貸したはずなんだけど!」

「俺が黙って遊夜の制服、他の男に着せると思う?」

「……」


思わない。てかありえない。


「で、遊夜が他の男の制服着てるとか耐えらんないんだよね」

「…それってどういう事?」

「脱いで」


呆然としているあたしをよそに、ネクタイをするんとほどかれる。

そのままシャツのボタンに手をかけた。


「ちょ、ちょっと本気!?」

「大丈夫、女子の制服の余り持って来たから」


さ、さすが亮介…じゃなくて!


「だめだよ!男女逆転喫茶なのに仕事になんないじゃん!」

「へぇ、俺に逆らうんだ?」

「そ、そういう訳じゃ、なっ」


既にあいていた第一ボタンから襟を広げて、亮介はあたしの首元にキスをした。

思わず身をよじる。


「感じてんの?遊夜のえっち」

「違うもん!亮介がいきなり変な事するから…」

「だから、生意気」


また首に顔を埋められたと思ったら、そのまま吸われた。


「ん…やっ」


くっきりとついてしまった赤い印。

丸見え…なんだけど。


「ねぇ遊夜」

「なに…」

「続きしてもいい?」

「だ、だめ!」

「なんで」

「だって、ここ学校だし…っ」


ただの空き教室。ましてや今日は文化祭。

扉には鍵なんてかかってないし、スモークガラスからは廊下を歩いているたくさんの人影が見える。薄い壁一枚の向こう側からは、ざわざわとした話し声が聞こえてくる。


こんなとこで、なんて危険過ぎる!


「どうしてもだめ?」

「…だ、め」


亮介は黙り込んで、シャツから離した手をあたしの腰に回し強く抱きしめた。


「どうしたの?」

「……ん」

「珍しいね、亮介が食い下がるなんて」

「…からかうだけのつもりだったんだけどね」

「え?」

「なのに遊夜の反応が可愛いから、耐えられなくなったんだよ」

「……」

「自分から始めたくせに、かっこ悪いね、俺」


くしゃ、と抱きしめたままあたしの頭を撫でる亮介。

突拍子もない言葉に恥ずかしくなると同時に、愛しい気持ちがこみ上げる。


「亮介、」


ちゃんと話したくてくっついていた体を引き剥がそうとすると、亮介は力を強めて離してくれない。


「今、顔見ないで」

「何で?」

「…言うわけないでしょ、バーカ」

「けち」

「うるさい」


多分、柄じゃない赤くなった顔をあたしに見せたくないんだろうなぁ。

そんなことしても可愛いだけなのに。バカなのは亮介の方じゃん。


「亮介」

「…なに」

「大好き」


びっくりしたのか亮介は思い切り体を引き剥がした。

その拍子に目が合う。


「亮介、耳まで真っ赤」

「…ほんと今日の遊夜生意気」


クスクスと笑っていると、亮介の顔が近くなる。

そのままあたしも目を閉じた。



亮介、大好き……



「てめぇコラ亮介!遊夜!いつまで休憩してんださっさと仕事しやが…れっ!?」


タイミングが良いのか悪いのか、扉から勢いよく吠える伊佐敷が入って来た。

キスまであと1センチ、というところであたしと亮介は止まる。


「…純?」

「り、亮介!これはわざとじゃ」

「後でどうなるか分かってるよね?」

「悪かったって!」


伊佐敷は可哀想だけど、ちょっと残念…なんてね。
















小湊くんと男女逆転喫茶


(つか遊夜!てめぇ服!)
(え?あ、)
(純、何見てんの?)
(ちげぇ!これは不可抗力…あぁぁだらっしゃぁぁぁあ)






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