クリスマス当日、その日はホームで他の大学と練習試合だった。


「御幸、お疲れー」


終わってから声をかけてきたのは、俺とは違うユニフォーム。つい二年前までは同じ物を着ていたけど。


「おー、お疲れ倉持」


試合の相手は、倉持の通っている大学の野球部だった。


「ヒャハ、御幸が相手チームとか未だに慣れねーわ」

「はっはっは、俺がいないと寂しいって?」

「ちげーよ、敵にまわしたくねんだよ」

「…盗塁決めたくせに」

「何回か刺しただろーが」

「何回も成功してたじゃん、俺決められんの久しぶりだったんだからな」

「元チームメイトなめんな」

「まぁそんくらいやってもらわなきゃ困るね」

「うぜー」

「はは、ありがとな」

「……」

「…何だよ?」

「いや、当たり前だけど違うユニフォーム着てんだなって思ってよ」

「あ、それ俺も思った」


俺と倉持はお互いのユニフォームを見合わせて、少し黙り込んだ。

高校生活というものは、限りがあるから青春時代というわけで。 分かってはいるけどいざ自覚すると、それはそれで寂しいものだ。


湿っぽい雰囲気になるのが嫌で、俺は話を変えた。


「どうよ、久しぶりの地元は」

「あー…何も変わってねぇわ、御幸が俺の地元の大学に進学するとは思ってなかったけどな」

「俺だってびっくりしたよ」

「どうよ、ここ」

「いい所だな」

「ヒャハ、だろ?」

「…倉持、彼女とはうまくいってんの?」

「あ、それ別れた」

「相変わらず早ぇーな」

「大学生らしくていんじゃね?」

「お前高校の時も同じ事言ってただろ」

「そんなんばっか覚えてんのな」

「…あの子とは会わなくていいのか?せっかく地元帰ってきてんのに」

「…何の話だよ」

「高校のときに言ってた女の子の話だよ」

「…何でそんなんまで覚えてんだ」

「お前、それでいいのかよ」

「御幸には関係ねーだろ」

「あるよ」

「あ?」


倉持は俺の方を振り向いた。怪訝な顔をしている。

俺はお構いなしに言葉を続けた。


「椎名遊夜、だろ?」

「…おま、何で知って…」

「大学一緒なんだよ、割と仲いいぜ?今日もこの後約束してる」

「…へぇ」

「俺、一人暮らしだし」

「…何が言いてーんだよ」

「外で晩飯食ってから、俺の部屋呼ぼっかな、って思ってる」

「ふ…っざけんな!」


気付いた時には、倉持が俺の胸倉を掴んでいた。



「あいつに…遊夜に手ぇ出してみろ、いくら御幸でもぶん殴る!!」


俺も負けじと、倉持の胸倉を勢いよく掴んだ。



「なら何で会いに行ってやらねーんだよ!!」


「…っ」

「今でもそんなに好きなんだったら、かっこつけてねーでやり直したいって言えばいいだろーが!」

「お前に何が分かんだよ!」

「分かんねぇよ!」

「…俺がどうしようと、俺の勝手だ!」

「じゃあ俺もどうしようと、俺の勝手だろ?」


黙り込んだ倉持の胸倉から手を離すと、倉持も俺を開放した。

俺は、そのまま背を向けて歩き出す。



「…じゃあな、倉持」






倉持が何も言えずに立ち竦んでいるのは分かっていた。追ってくる気配もない。


俺はエナメルから、携帯を取り出した。



『もしもし、御幸くん?』

「遊夜ちゃん、今大丈夫?」

『うん、練習終わったんだね』

「あぁ、ちょうど終わったとこ」

『お疲れ。今日、何時に…』

「それなんだけどさ、悪い、約束無かった事にしてくれねぇ?」

『え?』

「…別に、遊夜ちゃんと倉持に影響された訳じゃねーんだけど、俺も好きな女が幸せならそれでいいわ」

『…どういう意味?』

「頑張れよ、って意味」

『何それ、全然わかんない』

「ははっ、なぁ今から大学来て?そしたら全部分かるから」

『今から?』

「そ、今から」

『…分かった、行くから待っててね』

「いや、俺はいないよ」

『え?』

「とにかく来て」

『…いくけどさ』

「なぁ、遊夜ちゃん」

『何?』

「俺、遊夜ちゃんのこと大好きだったよ」



ばいばい、と言い残して俺は一方的に電話を切った。

混乱しているであろう遊夜ちゃんが目に浮かぶ。




「…お、雪」


ホワイトクリスマス、なんてガラでもない事を思いながら、空を見つめた。



…なんて損な役回りなんだろーな、俺って。



本当に、好きだった。




でも俺も、好きな女の幸せを願ってみたいと思ったんだ。


















もう心はないと
I know 分かってるよ
もう手遅れでも
I'm stronger than I used to be
今の私をもう一度見て


















…どういう事?


ドタキャンされるし、意味わかんない事ばっかり言って切るし。なんなの御幸くん。


「…頑張れよ、って、何それ」


急いで上着を羽織って家を飛び出したあたしは、大学に向かって走っていた。


大学に着いても御幸くんはいない。それは分かってるけど、それでも行かなきゃいけない気がした。

意味深な御幸くんの言葉が頭から離れない。


全く予想がつかない訳じゃない。頑張れ、なんて、十中八九倉持のことだろう。



「…っはぁ…」


だんだんと速くなる呼吸を整えるため、あたしは少し足を緩めた。いつもの交差点に差し掛かる。


冬、雪、信号…完璧なるデジャヴ。

倉持を思わずにはいられない。


思い返せば初めて出会ったのも、付き合ったのも、別れたのも、全てこの場所で起こったことだ。





景色を見るのが嫌で、下を向きながら横断歩道を足早に歩いていると、すれ違う人に肩がぶつかった。


「あ、すいません」

「いえ」


そのまま、反対側の歩道に着いた、その瞬間。





「……え?」





心臓がやけにざわついて、あたしは振り返った。


自分がさっき渡ってきた道に、目をやる。





向こう側の信号の下に、すれ違い様にぶつかった人の後ろ姿が見えた。


その人も、こちらを振り返る。





目が合った。









「…倉持?」



「…遊夜?」









ドクンドクン、心臓がやけにうるさい。

硬直したように体が動かない。









青信号が、カチカチと点滅する。

それと同時に、倉持がこちら側に走ってくるのが見えた。







信号が、赤になった。

そう認識したときには、あたしは倉持に抱きしめられていた。











「会いたかった…っ」


「あたしも、会いたかった…!」








ぎゅう、と倉持を抱きしめ返す。冬なのにこの暖かさは、夢なんかじゃない。




空から絶えず舞い落ちてくる白い雪だけが、あたし達を見つめていた。













止まっていた時がまた、動き出す。















この街のどこかでまた会えたら
I'm stronger than I used to be抱き締めて























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