パパパーパパパーパラパパパー


「狙い〜うち〜♪」


「……えっ」


一階の美術室で一人で自主練としてトランペットを吹いていたら、急にリズムに載せて歌詞を歌われた。

あたしは突然聞こえた声に驚いて振り向くと、そこにはユニフォームを着た野球部のキャプテン。


「…御幸くん」

「それ、俺の曲」


別にあんたの曲じゃないでしょ、と突っ込みたくなるけど言えない。ただのクラスメートでそんなに仲が良い訳ではないし、何より、


「…なにしてんの?」


何よりあたしはこの男が好きなのだ。


「休憩がてらこのへん歩いてたら、おなじみの曲が聞こえたから」

「そうなんだ」

「珍しいね、こんなとこで一人で練習なんて」


そう、別にこの美術室でいつも練習してる訳ではない。本来ならパート練習でどこかの教室でみんなと吹いているはずだった。


「あー…コンクールの課題曲がヘタすぎて、顧問に怒られたの」

「コンクールの?でも今狙い撃ち吹いてたじゃん」

「何か元気、でるから」


野球の応援曲を吹いていると、スタンドで演奏したあの景色を思い出す。グラウンドで戦っているみんながとても眩しくて、あたしは勇気をもらっていた。

そしてその中でもやっぱり、御幸くんの曲が一番好きだった。


「何で狙い撃ちなの?」

「え?」

「他にもいっぱいあるじゃん、ほら、ルパンとかさ」

「それは…そーなんだけど」

「ねぇ、何で?」

「御幸くんの曲だから…」


うわ、言ってしまった。これじゃまるで告白みたいだ。恥ずかしい。


「ふーん…」


御幸くんはニヤッと笑ってあたしを見つめた。

やばい、かっこいい。そんな顔で見ないで。恥ずかしさでおかしくなりそうだ。


「で、でも他の曲もたまに吹くよ!聞いててね!」


パーパーパラッパパーパパー


「げ!それ倉持の曲」

「そーTRAIN-TRAIN、よく分かったね」

「はっはっは。何だ、椎名すげぇうまいじゃん」


でもそれはダメ、と言って御幸くんはひょいと窓から美術室に乗り込んできた。


「え」

「ねぇもっかい吹いてよ俺の曲」

「そんな近くで見られてたら、緊張して無理…」


御幸くんはきっちり外で靴を脱いだみたいで、泥だらけの靴下でペタペタとあたしの方に向かってきて顔を近づける。

超至近距離のまま、ニッコリ微笑む御幸くん。


「なぁ椎名」

「は、はい」

「俺のこと好き?」

「はいっ!?」


いきなり何言い出すんだこいつ!しかも真顔!

あたしは緊張と動揺と驚きで、固まってしまった。


「なぁ、好きじゃねぇの?」

「や、その」

「俺は好きだけど、椎名」

「…え」


御幸くん、今、なんて…


「トランペットの音聞こえて、椎名だったらいーなーと思って来てみたらまさかの椎名で」

「え」

「落ち込んだ顔した後に狙い撃ち吹いてっから、何かすげー嬉しかったんだよ」


そう言って御幸くんは笑った。


何それ、ずるい。ほんと反則。


「…なんか」

「ん?」

「そんな事言うの、御幸くんのキャラじゃないね」


思った事をそのまま口にすると、驚いたことに御幸くんは顔を赤くした。どうやら不本意だったらしい。


「しゃーねーだろ、余裕ないんだよ」

「余裕、ないの?」

「さすがの俺でも好きな女の前じゃ、無理みたいだわ」


好きな…女…


本当に本気なのかな、御幸くん。

普段あんなに余裕しゃくしゃくで、元ヤンの倉持くんにいつもしてやったり、みたいな感じの御幸くんがこんな風になってんだから、本気なんだろうと思うけど。


でも本当に御幸くんが、あたしを?


パパパーパパパーパラパパパー


「ちょ、この雰囲気で吹く?」

「告白の…返事なんだけど」

「…ははっ」


御幸くんは一回びっくりしたような顔をしてから、目を細めて笑った。


「それ、OKってとっていいんだよな?」

「…そうとらなきゃ、もう狙い撃ち吹いてあげない」

「はっはっは、狙い撃ち以外吹かせてやんねーよ?」


トランペットを抱きしめるあたしのおでこに、御幸くんはキスをした。























(おい、何サボってんだ御幸〜)
(あ、倉持くん)
(お前何でここ分かったの)
(トランペットの音が中途半端に聞こえてきたから)
(勘良すぎて怖ぇよ、お前…)



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