「なぁ遊夜、何でそんな機嫌わりーんだよ」
「…倉持が悪いんでしょ」
「は?俺?」
「他に誰がいんのよ!」
じゃれてくる倉持の手を振り払い、あたしはそっぽを向いてやった。
「俺なんかしたか?」
「自分の胸に聞いてみやがれ」
「…わかんねぇ」
「もう少し考えなさいよ」
「…遊夜のプリン俺が勝手に食ったことか?」
「違うから!」
「じゃあ遊夜のゼリー勝手に食ったことかよ」
「それも違う!」
「もしかして遊夜のアロエヨーグルト勝手に食ったことか」
「違うってば!てかあんたどんだけあたしの物勝手に食べてんのよ!」
抱えていたクッションを倉持に思いっきり投げると、顔面に命中。
バーカ!とあたしは叫んで倉持の部屋から飛び出した。
「てめ、何しやがんだ!」
「離してよ!倉持が悪いんでしょ!」
「俺が何したんだよ!」
「…っ、クラスの女の子に、好みのタイプはお前みたいな子、とか言ったんでしょ!」
「…おま、何で知って…」
「その子から偉そうに自慢されたのよ!あたしが倉持の彼女って知っててね!」
「…っ」
「あの子絶対倉持のこと好きだよ!もうあの子と付き合ったら!?」
離せバカ!と叫んで、倉持の腕を振り払おうとしても、離れない。
「離してってば!」
「悪かったよ!あれは…そう言わなきゃいけねー雰囲気だったんだよ!」
「言い訳なんかいらない!」
「言い訳じゃねーよ!あんなとこでお前がタイプだなんて言ってみろ、お前がもっとうぜー事言われんだぞ!」
「いいもん!!」
二人とも自然に音量が上がって、あたしも負けじと声を張り上げた。
「いいもん、何言われても…倉持取られる方がいやだもん…」
「…遊夜」
「不安に…させないでよ…」
涙が出た。
倉持があたしを心配してくれているのは知っていた。それなのにちゃんと分かってあげれない自分が嫌だった。
「…俺の好みは、泣き虫で、やきもち妬きで、素直じゃなくて、自信なくて、何か抜けてて……俺のこと分かってくれるすげー可愛い奴」
「くら、もち…」
「お前だよ」
「あたし泣き虫じゃないもん…」
「わかったわかった」
涙で化粧の崩れた顔を、倉持はぐしぐしと袖で拭う。
そして、あたしの体を抱きしめた。
「ごめんな、遊夜」
「…倉持」
大好きだよ、と心の中で呟いた。
何でもない喧嘩で泣いて
いつも君は困っていたね
もっと伝えたい言葉はたくさんあったのに
「…好みのタイプ」
「ないの?」
「いや、あるよ?」
「へー、たとえば?」
「ここにはいないなぁ…御幸くんみたいなのでもない」
「コラコラ」
「ごめんつい」
「じゃあどんなのがいいの?」
「どんなのって…」
「軽くでいいからさ」
「…んー…、やんちゃで、バカで、意地悪なんだけど優しくて、一緒にいると楽しくて、ちゃんと人の事よく見てて分かってくれる奴」
「…何かそれすげー具体的。昔の彼氏?」
「…まぁね」
「俺の高校んときにそんな奴いたわ、同い年に」
「へーそうなんだ、御幸くんとはタイプ違うのにね」
「なんやかんや今でもたまに連絡とってるからな」
「仲良しじゃん」
「写メ見る?」
「あ、見たい」
「おーい遊夜、御幸くん!」
御幸くんのポケットから取り出された携帯を覗き込もうとすると、さっきの女友達から声をかけられた。
「もうすぐ3限だから、そろそろ解散するよ」
「あ、はーい、じゃあね御幸くん」
「おう、またな」
つい出てしまったあたしの『好みのタイプ』は、明らかに倉持を思わせるものだった。
変わったんだよ
もう泣いてないよ
もう大丈夫だよ
I'm stronger than I used to be だからso please