あ…赤。
信号に引っかかって、あたしは動かしていた足をとめた。
「遊夜ー、どうしたの」
「ごめん、先行ってて」
一緒に歩いていた集団に手を振り、電信柱にもたれかかる。
カッと照らす夏の日差しが眩しい。
「…あれから、5年か」
この街のどこか
偶然会えたらなんて
淡い期待をしてしまうけど
月日が流れ、大学生になったあたし。子供だったあの頃に比べたら随分成長したと思う。
変わってないのはきっと、倉持への気持ちだけ。
「…未練がましいな」
この交差点を見ると思い出す。5年前にここで別れて以来、一度も会っていない。
あっちも高校を卒業して今何をしているのか、進学したのか就職したのか、まだ東京にいるのか地元に帰ってきているのか、生きてるか死んでるかさえ知らない。
「遊夜ちゃん?」
呆然と地面を見つめていると、ぽんと肩を叩かれた。
「…え、あ、御幸くん」
「信号青だけど。渡んねーの?」
「嘘!気付かなかった」
「はっはっは、ボーっとしすぎ」
「自負しております…」
「急ぐよ、今から学部のみんなでイタリアンでランチでしょ」
「来るの?珍しいね」
「たまには顔ださねーと」
大学で一緒になった御幸くんは学部が同じで、仲の良い男女グループの一人。本格的に野球をしているみたいで、結構忙しいらしい。
「…あ、」
「どしたの?」
「手」
「遊夜ちゃん危なっかしいから、転ばないように」
「子供扱い?」
「女の子扱い」
ニッと笑って言う御幸くんはイケメンだ。
付き合っている訳でもないのに繋がれた手をちらっと見て、まぁいっかとあたしは目を離した。
「あ、遊夜!無事に来れたんだ、良かったー」
「なにそれ」
「だってあんた危なっかしいから」
「さっきも同じ言葉聞いた」
「あぁ、御幸くん?連れてきてもらったんだ?」
「いやいや、あたしは犬か」
「でも御幸くんかっこいーからラッキーじゃないの」
「…ラッキーなのかなぁ」
女友達と同じ方向に視線を向けると、そこには楽しそうにお喋りしている御幸くん。
確かにかっこいいけど、あたしのタイプとはかけ離れてる。すんごい爽やかだし。
そのまま見つめていると、バチっと目が合う。
わ、こっち来た。
「どうしたの、熱ーい目線で見つめてくれちゃって」
「別に見つめてないし」
「冷たいなー」
「おかげさまで」
「聞いたことないんだけど、遊夜ちゃんって彼氏とか好きな人いんの?」
「…いない、ね」
「じゃあ好みのタイプは?」
「…好みのタイプ」
すぐに頭に浮かんだあいつの事を、あたしは想わずにはいられなかった。
追いかけるだけの恋は嫌だった
もう戻らない日々を悔やんだ