彼氏だった倉持洋一が『旦那』という肩書きに変わったのはつい一週間前。

元から同棲していたので生活が変わる訳でもなく、籍をいれただけで実質そんなに変化はなかった。



「ねぇ、倉持」

「…あー?」

「お醤油とって」

「…おー」


二人とも仕事が終わって帰宅して、食卓を囲んで晩ご飯を食べていた。


「ほらよ」

「ありが…」


受け取ろうと手を伸ばしたら、醤油の瓶をひょいと避けられる。



「な、なに?かしてよ」

「やだね」

「なんで」

「自分で考えろよ」

「…卵焼きにお醤油は邪道だから?」

「ちげーよ」

「もしかしてケチャップ派?」

「だからちげーって」

「大丈夫だよ、別に夫婦だからって好みが違うとか普通だし」

「お前話聞いてんのか」

「…じゃあ倉持は何派なの?」

「それなんだよ!そ、れ!」


倉持がいきなり椅子からがたんと立ち上がったので、あたしは思わず怪訝な顔をする。


「それって、どれ」

「…気付けよ」

「うぅーーーーーーん、わかんない」

「もうちょい考えろよ!」

「まさかの邪道のマヨネーズ?」

「卵焼きから離れろ!」

「…うーん、わかんないよー降参!何で怒ってんのか教えて、倉持」


あたしが両手を挙げて白旗を上げると、倉持はため息をついて椅子に座り直した。


「倉持、かよ」

「え?」

「お前はいつまで俺のこと、倉持って呼んでんだよ」

「…だって高校のときもあたしが大学生になってからも、付き合ってるときだってずっと倉持だもん」

「俺は遊夜ってずっと呼んでる!」

「出会ったときからじゃん、これでお互い慣れちゃったし」

「…そうだけどよー」

「そんなこと気にしてたんだ、倉持かわいい」


あたしがクスッと笑うと倉持は、あのなぁと言って頭をがしがしと掻いた。


「一週間前籍いれたときからお前も倉持になったんだからな」

「…そういえばそうだねー」

「そういえばそうだねーじゃねぇよ!気付くの遅ぇんだよ!」

「何か照れるね」

「照れてる場合じゃねーよ!」

「まぁ、ご飯たべよーよ」

「てめ…っ」

「お醤油とって、洋一」


反対側に置いたままになっている醤油に向かって、手を伸ばす。

倉持は呆然としているかと思ったら、顔がみるみる赤くなる。


「おま、いきなりはずりーだろ!」

「呼べって言ったのそっちじゃん」

「何かもうちょっと言い方あんだろ!」

「ない、知らない、わかんない」


いいからお醤油、と言って更に深く手を伸ばすと、倉持はその手を引っ張った。


「ぎゃっ、何すんの!」

「…こんな嬉しいと思わなかった」


机の上に並べられたご飯たちに当たるか当たらないかのギリギリのところで、倉持はあたしの首に腕をまわした。真っ赤になってる顔を見せたくないのと、ただ抱きしめたかったんだろう。

なんだかすごくかわいい。


「遊夜すげー好き」

「…ご飯、こぼれるよ」

「まじで好き、一生好き」

「…ばーか」


あたしも好き、一生。


























(てゆーか早くお醤油とって)
(あぁわりぃ、ほらよ)
(ありがと倉持)
(てめ、戻ってんじゃねーか!)


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そういえば倉持ってみんなから倉持。
って考えてたらできた。
倉持と結婚したら絶対楽しいね!










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