「なぁ遊夜、これ見てみろよ」

「や…っ」

「は?」

「ち、近づかないで!」



それは、彼氏である純の寮の部屋で一緒に少女漫画を読んでいたときの出来事。



「どうしたんだよ?」

「さ、触らないでっ!」


純が触れて来た手を、あたしはばしっと振り払う。


「お、おい、何かあったのか?」

「別に…」

「俺、何かしたか?」

「ちがうよ…純は悪くない」

「なら何で」

「あたしの問題なの…」

「遊夜の問題?」

「ごめんね、しばらく触らないで…」


心配そうな顔で覗きこんでいる純と目を合わせるのがつらくて、あたしはぷいっと背を向けた。


「いやだ」

「…え?」

「俺は遊夜が好きだから、触らねーとか無理なんだよ」

「純…」

「何かあったなら話してくれよ、俺そんなに頼りねぇか?」

「そういう訳じゃ…」


ぐい、と純があたしの二の腕を掴んだその瞬間、



「触んないでーーーーーーっ!!」


反射的にあたしは純にビンタをかましていた。



「何すんだよ遊夜!」

「触らないでって言ったのに触る純が悪いんじゃん!」

「んなの、理由わかんねーんだから仕方ねぇだろ!」

「でも、でも…っ」

「いきなり平手打ち飛んでくるとは思わなかったけどな!」

「…う、ごめん」

「…いや、俺が悪かった、遊夜が触んなっつーんならもう触んねーよ」

「…ほんとごめん、痛かった?」

「全然」


お前力よえーんだよ、と言って苦笑する純をみていたら、思わず涙腺が緩んだ。


「ごめん、ごめんね純…あたし、間違ってた」

「いや…」

「純に嫌われるのが怖くて話したくなかったんだけど……嫌いにならない?」

「バカヤロォ、俺が遊夜のこと嫌いになる訳ねぇだろ」


泣きべそをかくあたしの額に、純はぺしっとデコピンした。地味に痛い。


「あのね、あたしね…」

「おう」

「あたし、ね…」

「おう」


「ふ、太ったの…」

「…ふと…?」

「だから、太ったの…!」


言っちゃった。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

あたしは自分の顔が赤くなっていくのを感じた。



「…それだけか?」

「ちょ、それだけって何よ!女の子からしたら一大事なんだけど!」

「だってお前、全然わかんねぇ」

「は!?前のあたしはこんなに太くなかったんだけど!」

「…どこらへんが太ったんだよ」

「顔は丸いし、足は太いし、二の腕だってぷよぷよになったの!」

「いやまじで全然わかんねぇ、てゆーか俺から見たらガリガリだし」

「どこが…っ」


反論を唱えようとしたら、純はあたしを引っ張った。ぐい、と腕の中に収められる。


「スッポリじゃん。前と同じで」

「……」

「大体、遊夜がどんだけ太ったとしてもな、あ、愛はかわんねーよ」

「…ばっかじゃない」

「うっせ!」


堪えきれなくてくつくつ笑うと、純はあたしを抱きしめる力をぎゅうと強めた。


「とりあえず、変わってねーんだから触らせろ!」

「きゃーえっちすけべへんたーい」

「…飯はちゃんと食えよ」

「…ふふ、食べるよ」

「ならいーんだけどよ」

「でも、ダイエットはするかな」

「何でだよ!」


あたしは純の腕から抜け出して、顔を合わせて微笑んだ。


「だって、綺麗な純の彼女でいたいから」




























(ちくしょ、可愛いんだよお前!)
(純の方が可愛いから)
(ううううるせえからかうな!)
(ふふ、だーいすき♪)


*************


食欲の秋やばい!
でも純さんなら愛してくれる!はず!






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