「…よく食べるねぇ、てっちゃん」
「そうか?普通だが」
「あたしもそれくらい食べたい」
「せっかくの食べ放題なんだから好きなだけ食べた方がいいぞ」
ある日の夜、部活を終えた彼氏ことてっちゃんこと結城哲也と焼肉食べ放題に来ていた。
もう見るのが嫌になるほどいっぱい牛肉をお腹に詰め込んだあたしは、最初から変わらないハイスピードで食べ続けるてっちゃんを見つめた。
「好きなだけ食べたんだけどなー」
「む、遊夜は少食だな」
高校球児と比べないでよ、言おうとしたけどてっちゃんが店員さんを呼び止めたのでやめた。
「すみません、カルビとハラミを二人前、サガリとミノとロースと豚トロと塩タンと自家製ソーセージを一人前、ユッケとナムルとワカメスープと、あとクッパください」
「まだそんなに食べるんだ…」
「遊夜はもういいのか?」
「う、どーしよっかな」
何かあたしがあんまり食べてなくて損みたいじゃない。とりあえず店員さんには厨房へ戻ってもらって、あたしはメニューを開いた。
「てっちゃん」
「なんだ?」
「あ、いやそうじゃなくて、てっちゃんにしよっかな」
「俺にするのか?」
「いや、ホルモンの」
「俺のホルモン?」
あぁもう話が通じない。これだから天然は。
「牛の臓器で、大腸だったかな?てっちゃんっていうんだよ」
「そうなのか…」
知らなかったな、とてっちゃんは呟いて店員さんを呼び、てっちゃんを二人前くださいと頼んでいた。どうやら自分も食べてみたくなったらしい。
てっちゃんが、てっちゃんてっちゃん言ってるのを見ていたら何だか混乱してきた。
「お待たせしました、大腸二人前です」
コト、とあたし達の机に置かれた牛肉。それをトングではさんで網に置くあたしの一連の動作を、てっちゃんは食い入るように見つめている。
「…もう食べていいか?」
「だめだよ!焼いたばっかだし!」
「そうか…これは時間がかかるのか?」
「わかんないけど、あたしはホルモンは割と長く焼くかなー」
てっちゃんは少し残念そうな顔をして、さっき頼んだクッパを食べ始めた。口とお皿にスプーンを往復させながら、ずっと網の上の大腸を見ている。
そんなに気になるのか。
「…もう食べていいか?」
「まだだめ」
「…そうか」
「こっちのカルビとハラミ焼けてるけど」
「む、もらおう」
ひょいひょいとお皿に焼けてるお肉を盛ってあげると、てっちゃんはそれを食べながらもまだ大腸を見ていた。
「そんなに気になる?」
「いや…別にそんなことないが」
「うそ」
「…まだ食べたらだめか?」
眉を下げられて見つめられて、あたしはふっと笑ってしまった。
「もういいよ、はい」
焼けた大腸をお皿にうつすと、てっちゃんはそれをしばらく睨んでから口に含んだ。
「おいしい?」
「不思議な味がするな」
「まぁ確かに」
「なかなか噛みきれん」
「あはは、頑張って」
てっちゃんがてっちゃん食べてる。変なの。
クスクス笑いながらあたしも目の前にある大腸を食べた。やっぱり好きなんだけどな。
「きらい?」
「嫌いじゃないが好きでもないな」
「あたしは好きだけど。てっちゃんって名前だからかな」
「…そうか」
「あれ、もしかして照れた?」
「遊夜は、このてっちゃんと俺、どっちの方が好きだ?」
なんて、真剣な顔して聞いてくるもんだから思わず吹き出した。
「そんなの決まってるよ」
「どっちだ?」
「てっちゃん」
「…どっちかわからん」
自分と同じ名前だからって、牛肉にヤキモチ妬くなんて可愛いんだから。
「結城哲也がだーいすき」
「…俺も遊夜が大好きだ」
てっちゃんはちょっとだけ微笑んで、またお肉を食べ始めた。
(小腸はこてっちゃんって言う人もいるんだよ)
(小さい俺か?)
(なに小さいてっちゃんって)
(今、こてっちゃんだと)
(…バカな子程可愛いってね)
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哲さんにてっちゃんって言わせたかった
ただそれだけ。笑