「哲、これは?」
「…凄くキラキラしているな」
「んーじゃあこっちは?」
「可愛らしいな」
「もー、どれにするの!」
「遊夜はどれがいいんだ?」
「あたし?何でもいい、全部おいしそーだし」
今日はハロウィンだということで、幼なじみのあたしと哲はケーキでも買って帰ろうという話になった。
部活帰りに二人で通学路にある、ケーキ屋さんのショーウインドウを眺めている。
「…む、遊夜これは何だ?」
「どれどれ」
「何故アメリカの都市の名前が入っているのだ?そこで作られたのか?」
「あー、どうなんだろうねえ」
「…気になるな」
「哲、それがいいの?それにする?」
哲は、ショーウインドウのはしっこにある質素なホールケーキに夢中だった。他の苺やチョコレートに比べると、上にフルーツが飾られている訳でもなく、色気もないケーキ。
あまりにも哲が食いついているので、あたしは店員さんを呼んで、そのケーキを購入した。
「遊夜、これはうまいのか?」
「食べたことないんだ?」
「ケーキはあまり食べんからな」
「あー、なるほどね」
哲が買ってくれたケーキの袋を持ってくれて、二人でまた帰り道を歩き出す。
こうして歩いているとたまに、あたし達はカップルなんじゃないかという錯覚に陥る時がある。
「あたしは好きだよ」
ケーキの入っている箱を見ながら言うと、哲は急に真顔になった。いや、いつも真顔なんだけど。
「俺も好きだ」
「え、食べたことないんじゃなかったの?」
「食べてもいいのか?」
「いいに決まってる…」
あたしの言葉は遮られた。哲の唇が、あたしの唇を塞いだから。
え。
あたしは驚いて、思わず持っていた学生カバンを落とした。
「ちょ、ちょっと哲!?」
「食べていいんじゃなかったのか」
「ケーキの話だよ!」
「俺はケーキより、遊夜が食べたい」
何言ってんだこいつ、思春期か。普段ド天然なくせにちゃっかり性欲は人並みかよ。
「…もしかして、さっきの好きだってあたしのこと?」
「そうだが」
「……」
なるほど納得。
つまり、あたしは哲に告白したことになっているわけだ。
まぁ、別にいいけどね。ほんとのことだし。
「分かった、食べていいよ」
「本当か?」
「家帰ってからね」
「あぁ」
哲は嬉しそうな顔をして、あたしもつられて微笑んで、それから二人で手を繋いでまた帰路についた。
ニューヨークチーズケーキ
(ま、待って!ここ玄関だから!)
(家は家だ)
(ケーキ食べよーよ!)
(ケーキより遊夜が食べたい)
(ちょっと!もう、バカー!)