「では俺は帰るとする。純、遊夜、またな」
「あぁ、じゃあな」
「さよーなら」

礼ちゃんに鍵を貰い部屋番号を教えて貰い終えると、通いらしい哲さんは帰って行った。

「俺らは寮戻るか」
「あ、はい」

純さんと二人きりになって、部室から寮までの夜道を淡々と歩く。

「……」
「………」

気まずい。何話せばいいのか分かんないし。

「…なぁ」
「はいっ?」
「あのよー…その…、恐がんねーでいいぞ」

はい?いきなりの純さんの突拍子なセリフに驚いた。

「俺ァ口悪いし、顔もこれだしよ…けど怒ってる訳じゃねえから」

照れたように頭をガシガシとかいて言う。あたしは思わず笑った。

「はは…純さんなんか全然怖くないですよ」
「なんかその言い方も寂しいな」
「だから大丈夫でーす」

サラッと言うと、純さんは嬉しそうに笑った。

「そうか」

思わずドキッとした。この人、こんな可愛い顔もするんだ。

「うわ!?」

フッ、と急に目の前が真っ暗になった。目の周りの当たりに手の感触。

「だーれだ」

あたしの声でも純さんの声でもない声に、背後から問い掛けられる。

「え…っ」
「亮介じゃねーか」

焦るあたしの隣で純さんが呟いた。亮介?初めて聞いた名前だな。呆然としていると、途端に手はパッと離れた。

「純、言ったら面白くないじゃん」
「初対面で遊夜が分かる訳ねーだろ!」
「純が女の子連れてるのなんて珍しいね」
「話聞いてるか!?」
「君が遊夜ちゃん?」

亮介と呼ばれたその人は、純さんの話を全て無視してあたしに向き直った。ピンク色の長い髪に、小さい背丈、細い目。

「…はい」

ある意味ただ者ではないな、と感じた。

「純の彼女?」
「ゴラァ亮介ぇ!!!」
「な訳ないですよ」
「即答か遊夜!!!」
「フフ、だよね」

だよねだって。分かってるなら聞くなよ!

「高島さんの従姉妹の新入生でしょ?」
「あ、はい」
「何で分かんだ亮介!!」
「前監督が話してたじゃん、高島さんの従姉妹が訳ありで寮入るって」

入学式の日に女の子が寮の近くをうろつくなんてビンゴでしょ、と亮介さんは言った。あたしは思わず感心した。辻褄が合いすぎている推理だ。

「野球部ってこんな頭良い先輩いたんですね」
「ん?誰と会ったの?」
「ツリ目と眼鏡の二年生と哲さん純さんです」
「それじゃ仕方ないね」
「仕方なくねーだろ!」
「純、うるさい」

バッサリと切って捨てられた純さんは、拗ねて黙り込んだ。やっぱり、このピンク髪の人は怖いんだろう。

「野球部三年小湊亮介。好きに読んでね」
「あ、高島遊夜です、亮さんでいいですか?」
「もちろん」

亮さん、か。なんて勝手に一人で頷いていると、急に頭をグイッと引っ張られた。

「え」
「遊夜ちゃん、」

よろしくね、の言葉の後に、額にキスされた。

「…な」
「亮介ーっ!?」
「「亮さんっ!!!!!」」

ん?今ハモった声が聞こえたんだけど。

純さんの悲鳴の後に叫んだのは、今朝会った二年二人組の声だ。なんて思っていたら、近くの茂みから例の二人が飛び出して来た。

「いたんだ倉持、御幸」
「ちょ、亮さん!!」
「何してんすか!!」
「あなた達が何してたんですか?」

亮さんに詰め寄る二人に、後ろから声をかけた。純さんが横で固まってるのは見なかったことにしておこう。

「いや…遊夜これは」
「クス、覗きなんて趣味悪いよね」
「違いますよ!たまたま自主練してたら…」
「覗きとか趣味悪いです、ツリ目先輩眼鏡先輩」
「なんだその名前!?」
「御幸と倉持だろ!?」

二年生コンビはやっぱりうるさい。眼鏡が御幸先輩で、ツリ目が倉持先輩か。仕方ないから名前で呼んであげよう。

「それより亮さん!今遊夜にキスしました!?」
「あ、うん」

あ、すっかりてっきり忘れてた。あたしデコチューされたんだった。

「ずりぃっすよ!」
「だってしたくなったんだもん」
「だもんじゃないです!」
「んー…」

御幸先輩と倉持先輩が亮さんに更に詰め寄る。二人がいるから当のあたしは何もいえないし。

「じゃあこういうのは?」

思いついたように両手をパンと叩く亮さん。何か嫌な予感がするのはあたしだけでしょうか。

「明日の練習でヒット一番多く打った人が、遊夜にデコチュー」

…はい?

いやいや、それあたしの了承得てください。

「さすが亮さん!」
「そうしましょう!」
「俺もやんぞゴラァ!」

いつの間にか復活した純さんと意気込んだ二年生ズ。

その三人をニコニコ楽しそうに眺める亮さんを見て、あたしは頭が痛くなった。




打ちまくれ!
(((絶対負けねー!)))
(フフ、いじりがいのある後輩が増えたね)







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何だこれ。スランプです

亮さんやっと出せた


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