無事に入学式を終えたあたしは、地図を片手に立っていた。実際、青道高校の敷地内を歩き続けて5時間ってとこかな。
「寮…てか、此処どこ」
困った。迷った。
学校を終えて寮に行きたいけど見つかんない、そして迷子、みたいな感じ。はは。
「うーん笑えない」
「あ!アンタ…」
急に後ろから声をかけられて振り向いた。そこには、確か同じクラスになった男の子がいた。
「君…同じクラスの!」
「あんた…同じクラスの!」
見つめ合いながら同じセリフ。お互いに名前は覚えてないらしい。もう野球部のユニフォームを着ているとこを見ると、スポーツ推薦だと思う。
「あ、高島遊夜です」
「え、高島って」
「高島礼の従姉妹なの」
「そうなのか!俺は沢村栄純、野球部未来のエースだーっ!!」
「はぁ」
野球部って自分で言ったし間違いない。これでやっと寮に行けるー!!
「沢村君、もう暗いし練習終わりだよね?」
「おう!食堂行くとこ」
「青心寮に連れて行ってほしいんだ」
「おう!」
付いて来い、と沢村君は笑顔で歩き出した。女なのに寮つれてけとか、道わかんない(迷子)とかに突っ込まないのかな。
黙って付いて行くと、古そうな建物が見えた。門には、でかでかと『青心寮』と書いてある。
「あ、着いた。ありがとう沢村君」
「いいって事よ!」
「じゃあねー」
沢村君はどこかに走って行ってしまった。あたしは門をくぐり、安堵のため息を漏らす。
「…あ」
ハタ、と気が付いた。あたし自分の部屋番号知らないし、鍵も無い。
「やば。礼ちゃん探さなきゃいけないし」
「あれ、遊夜?」
「えっ、礼ちゃ…!?」
名前を呼ばれて、あたしは満面の笑顔で振り向いた、けど。
「よ!また会ったな!」
そこに居たのは朝に会った、風呂上がり姿の黒縁眼鏡の先輩だった。勿論あたしのテンションは一気にダウン。
「…はあ」
「え、何でため息?」
「眼鏡先輩こんばんわ」
「いや、御幸だから」
相変わらず面白ぇな、なんて笑う御幸先輩。眼鏡の印象が強すぎて本名なんて忘れてた。
「なに遊夜ちゃん、礼ちゃん探してんの?」
「あーまぁ…」
「俺場所分かるよ」
「えっ!!!!」
あたしはバッと顔を上げる。助かった。キラキラした眼差しで御幸先輩を見つめた。
「連れてって下さい!眼鏡先輩!」
「眼鏡じゃねーよ」
「御幸先輩!!」
「一也って呼ぶなら連れて行ってやるよ」
は?
笑顔が固まったあたしの代わりに、御幸先輩がにっこりと笑う。
「呼べよ、一也って」
「…何言ってんですか」
「かーずーや」
何で出会ったばかりの人を下の名前で呼ばなきゃいけない。絶対この眼鏡性格悪い。でも、しなきゃ礼ちゃんには…
「…わかりました」
「まじ?」
「いきますよ」
ニタニタ笑いやがって、この変態眼鏡。先輩だけど。
「…かず」
「む、何をしている」
「御幸と…誰だよ?」
あたしの言葉が、突然の低い声に遮られた。驚いて振り向くと、制服を着た男の人と赤毛の男の人がいた。
「哲さん、純さん!」
「御幸、この女性は誰だ?知り合いか?」
「寮に女連れ込むなんて良い度胸だなコラ!」
「違いますって!」
どうやら話の中心はあたしらしい。普通、野球部の寮に女のあたしがいるなんて変だよね。
「あのー…」
「おぅわっ、喋った!!」
声をかけると赤毛の人がのけぞった。人間なんだから、そりゃあ喋るよ。
「あたし高島礼の従姉妹で高島遊夜です、訳あって寮生に…」
「あぁ、例の」
「何だお前がか!話は聞いてるぞオラァ!」
朝のツリ目先輩と眼鏡先輩といい、この制服と赤毛の人といい、どうやらあたしは知られているようだ。多分礼ちゃんか監督が事前に説明しておいてくれたんだろう。
「高島さん…だとややこしいな」
「遊夜でいいだろ?」
「えー!純さんいきなり呼び捨てなんて」
「眼鏡先輩もさっきしたじゃないですか」
「ところで御幸と二人で何をしていたんだ?」
制服の人に問い掛けられる。何って…何だろう。強いて言うなら、
「セクハラ…?」
「遊夜ちゃん!?」
「ゴラァ御幸!!お前何してんだよ!」
「ちょ、誤解です純さんまだそこまで…」
「まだって何だコラ!!」
眼鏡先輩は赤毛の人に怒られ出した。ふーんだ、いい気味。さっきあたしをからかった罰だ。
「御幸、お前は風呂上がりだろう?湯冷めするからもう部屋へ戻れ」
「哲さん…」
「それと純、今は夜だからあまり吠えるな」
「ちっ、分かったよ」
「すまん遊夜。では高島さんの所へ行こう」
おぉ…。あの眼鏡先輩と赤毛の人を難なくまとめあげた…。
あたしは制服の人を尊敬の眼差しで見つめた。この人、キャプテンって感じのキャラだな。
「俺は野球部キャプテンの結城哲也だ、好きに呼んでくれていい」
「うわ予想大当たり…」
「何か言ったか?」
「いえ、何でも」
本当にキャプテンかよ。期待を裏切らないな。
「哲!俺を置いてくな」
「あぁ、すまん純」
「野球部副キャプテンの伊佐敷純だ!今すぐ覚えやがれ!!」
「あ、はい」
キャプテンと副キャプテン。いきなり重役に出会ってしまったな。しかもツリ目先輩といい眼鏡先輩といい、野球部はキャラ濃い人が多い。
「…ふふっ」
「どうした?遊夜」
ま、楽しそうな気もするからいっか。あたしの頬は自然と緩み、気付けば笑顔になっていた。
「哲さん、純さん、で良いですか?」
「!」
「ちょ…おまっ…、その顔やべーよ」
「え?」
「何でもねぇ!!」
叫んだのは純さん。心なしか哲さんの顔が赤く見えた。
「どうし…って純さん!?何逃げてんですか!」
「うるせぇ!!」
「ちょ、なに、哲さんまで走り出して!!」
「部室まで競争だ」
あたしは訳が分からないまま、二人を追って駆け出した。
一緒に走ろう
(何だよ、さっきまで無愛想だったのに)
(いきなりのその笑顔は反則でしかない)
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栄純と哲と純登場!
ヒロインはツンデレ