kaleidoscope
絶えず変化するかたち

ガラッ

「あ」
「な…何やってんだオラぁぁあぁ!!!!」

放課後部活が終わった後、俺は忘れ物を取りに教室へ行った。明かりもついていないので誰もいないと確信してドアをあけたが、人はいた。

教卓の上に座って、男女二人が「真っ最中」だ。そして突然現れた俺に驚き、勢いよく離れた。

「お、俺行くわ!」
「んーばいばい」

男は慌てたように出て行った。お前なんかファスナーあげるときに男の大事なところはさんじまえ、と俺は思った。視線を女に変えると、そいつは教卓に座ったまま足を組み、偉そうに俺を上から見下ろしていた。

「…椎名?だよな。お前、何してんだよ」
「え、子作り?つくる気ないけど。てか喋んの初めてだね伊佐敷君」

ニッと余裕の笑みを見せるのは、クラスメートの椎名。あまり騒ぐタイプではないし、話したことはなかった。顔は引くほど綺麗なので、よく男の中の会話で名前が出てくる女だ。

「…とりあえず、その格好をどうにかしろ」

俺は顔を背けながら椎名に言い放った。ブラウスのボタンは全開でブラが丸見え、スカートのホックは開きっぱなし。対照的な長いサラサラの黒髪が、むき出しの肌の白さを強調させる。

「え、やだ面倒だし」
「…はしたないぞコラ」
「あはは、伊佐敷君ってお母さんみたい」

ケラケラ笑う椎名。余りの可愛さに、一瞬見とれた。整いすぎた顔立ちに似合う、口角を上げて目を細める笑顔。

「あー、でも人に見つかるの初めて」

もうアイツは無しだな、削除削除、と言いながら椎名は携帯を物凄い速さで打った。

「無し?削除?…さっきの彼氏じゃないのか」
「へ?んな訳ないよ」

また椎名は笑う。くそ、いちいち可愛いな。そしてその表情とは正反対のセリフは、意味深。

「ただの友達」
「…は?ただの友達とあんな事しねーだろ」
「あたし彼氏はつくらない主義なの」

営業スマイルをつくる椎名。変な奴、ただそれだけ思った。

「人の気持ちなんて変わるもんじゃん?なら、セフレでじゅーぶん」

窓の外は真っ暗。夜空に少しだけ光る星を見つめて、椎名は言った。どこか切なげで、悲しそうで。貼り付けた笑顔だってことが分かった。

あぁ、コイツ強がってんだな。実は弱いんだな。本当は寂しいんだな。

「…そうかもな」
「あり?伊佐敷君なら否定すると思った」

ニシシ、と相変わらず可愛く笑う椎名。一度見破るともう全てが分かる、無理な笑顔。

「確かに人の気持ちなんてすぐ変わるぜ」
「…ん、だね」
「現に俺は初めて喋った椎名に惚れたからな」

何でもないように呟くと、窓を見ていた椎名は目を見開き、バッと俺の方に振り向いた。

「…え?なに、からかわないでよ」
「からかってねーよ」
「…嘘よ」

ずっと冷静を保っていた椎名の顔はみるみるうちに赤く染まり、瞳は潤んだ。ヤバい、これはもう可愛すぎる。好きなんか通り越して、愛しいと思える。

「ど、どうせすぐ変わるんだから」
「そんなのわかんねー」

俺は椎名を見つめた。椎名は目を逸らす。

「なぁ、椎名?俺のこと信じてみろよ」

お前の過去に何があったかは聞かねぇから、そう言うと、椎名の瞳から涙がこぼれ落ちた。

「い、伊佐敷、く…」

ポロポロと流れていく雫を拭いながら、嗚咽を交えて名前を呼ばれる。抱きしめたくなる衝動を我慢して、口を開く。

「信じろよ、椎名」
「…っ」

人の気持ちは変わりゆくもの。でも怖がっていても何も始まらない。

「なぁ、椎名」
「…いいの?」
「あ?」
「あたしでいいの?」

涙で濡れた顔。真っ赤な顔。さっきまでの貼り付けた笑顔なんてどこにもない。

凄く愛しくなって、俺は椎名の腕を掴んでキスをした。

「椎名がいいんだよ」

今俺がお前に抱いているこの気持ちは、絶対に本物だから。






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絶えず変化するかたち






























(ねぇ、こんなキスだけじゃ足んないよ)
(っは!?)
(顔赤!かわいー)
(…お前覚悟しろよ!!)
(きゃー!)

確かに恋だった
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