love philter
惚れ薬
何で、何で?俺はみんなで稲実に行きたかったんだよ。なのに何で、一也だけじゃなくて君も青道に行ったの?
「鳴〜何してんだよ」
たまたま青道と練習試合をすることになり、青道高校に来ている俺たち稲城実業。辺りをキョロキョロ見回す俺に、カルロスは声をかけた。
「探しびと!」
「…挙動不審みたい」
ボソッと白河に呟かれ俺はムッとした。振り返ってみるとカルロスと白河は、俺達は全て分かってるよみたいな雰囲気をかもし出していた。
「あ、遊夜」
「えっどこどこどこ!?」
「うっそ〜」
「…カルロー!!」
「分かりやすすぎ、鳴」
にやけたカルロスと、ズバッと切って捨てる白河。俺はしまった、という風に口元をおさえた。
「遊夜探してんだろ」
「マネージャーだから、そりゃいるだろうね」
あちゃー。やっぱりバレバレ。遊夜は、俺の大好きな人。シニアの先輩の妹で昔から仲が良かった同い年。遊夜には、中3の時に集めたメンバーと一緒に稲実に入ってマネージャーをやってもらいたかった。けど遊夜は一也と同じように、青道へ入った。
「あ、遊夜」
「もーまた嘘でしょ…」
「鳴!久しぶり!」
懐かしい声が聞こえ、ハッとして顔をあげてみると、そこには愛しい愛しい女の子がいた。
「遊夜!」
自然に口角が上がる。遊夜は昔と変わらない表情で、にかっと笑った。なんて可愛いんだろう、もう犯罪的だね。
「よ!鳴!」
「あぁっ、一也ぁ!」
そんな遊夜の後ろからひょっこり顔を出したのは御幸一也だった。
「久しぶりにこのメンバー揃ったねえ!」
まぁ大半が稲実に行ったんだよねー、なんて笑って言う遊夜。俺は相槌をうつことさえ忘れていた。目の前にいる2人を、ただ見つめていた。
遊夜と一也。俺はこの2人にも稲実に来てほしかった。マネージャーとキャッチャー、大事なメンバーだったのに。もちろん稲実には優秀なマネージャーが何人もいるし、雅さんだっている。それでも、この2人と同じチームで頂点を目指したかった。
「…鳴?どしたの」
「意識とんでるぞー」
遊夜と一也に手をピラピラされて、俺はハッとした。やべ、またやっちゃった。謝ろうとして2人を見ると、俺の胸は一気にざわついた。
美男美女。程よい身長差。息の合った、仲の良さそうな2人。そして何よりも、同じ『青道高校』のユニフォーム。
お似合いだ。似合い過ぎているほどに。
「…っ俺、急いでるから!!」
「え、ちょっと、鳴!?」
捨てゼリフを残し、俺は4人を置いて走り出した。カルロスと白河が追いかけてくる気配はない。ふん、薄情者、別にいいけど。
「…ハァっ」
ある程度まで走ると、俺は息を切らして手を膝についた。頭の中がグチャグチャで何も考えたくなくなる。今頃、雅さんが俺を探しているはず。そんでカルロと白河がうまくごまかしてくれてる。なんだかんだ言って、良い奴らなんだよな。
「…め、鳴!」
「え?」
名前を呼ばれて、思わず振り向くと遊夜の姿。
「な、足、速くね?」
「昔野球やってたもん」
「あー…小学生の頃か」
「うん、」
どうしようか、急いでるからなんて言って逃げてしまった手前、このままでは格好がつかない。
「あ、あのさ…」
「鳴」
「ハイ」
「何で逃げたの」
うひゃー遊夜ちゃんさすが。直球だね。
「…別に」
「答えになってない」
不機嫌そうな声で言う遊夜。けど、本当の理由なんて言いたくない。一也と似合い過ぎててヤキモチ妬いて、見ていられなくなったなんてそんな事言ったら。俺の気持ち、バレるじゃんか。
「…違うからね」
「え?何が?」
「違うからっ!!」
「だから何が!?」
主語を言わず、突然叫ぶ遊夜。全く話が読めない俺。
「あたし、一也と付き合ってないからね」
「…あ、うん」
「だから誤解しないで」
顔を真っ赤にして涙目になる遊夜に、俺は見惚れた。なにそれ、ずるい、反則だ。何かもう全部通り越して、襲いたくなるじゃん。
「…遊夜こっち見て」
「や、やだ」
「…可愛いから」
甘い言葉を囁くと、遊夜は驚いたのか一気に顔をあげた。勢いがよすぎてたまっていた涙が流れ落ち、耳まで赤く染まっている始末だった。
もう、可愛くて可愛くて、愛しくて愛しくて、理性を保つのに必死。
「…め、い?」
気付いたら遊夜を抱きしめていた。だって、仕方ないじゃん、こんなの耐えられないよ。むしろ無理チューしなかったことに、褒めてもらいたいくらいだよ。
「遊夜、可愛い」
「え、ちょ、え?」
「可愛い、超可愛い」
「ど、どうしたの」
真っ赤な顔のまま、俺の腕の中であたふた慌てる遊夜。もう、全てがツボ。わざとやってるんじゃないかって思うほど、可愛い。
「遊夜。好き」
一也になんか負けない。一也よりも遊夜とお似合いの男になるから。
「…鳴、あたし、も」
「…え?」
間抜けな声が漏れた。すると遊夜は俺の胸に埋めていた顔をだし、相変わらず赤い顔でニコッとはにかんだ。
「あたしも好き!」
…っやばい。
「め、…んん」
むり、我慢の限界。
俺は遊夜の頭に手を回し思いきり深く口付けた。もう、離したくない。離れたくない。俺のモノ、遊夜は俺のモノ。
たとえ青道にいたって、一也のほうが距離が近くたって、遊夜は俺のだ。もう離さない。
「っぷは…」
唇を離すと、遊夜はかつてないくらいに顔を赤く染めていた。愛しくて愛しくて、俺はぎゅっと遊夜を抱きしめた。
「遊夜、大好き」
顔、体、声、態度、性格、全てが愛しい。君は俺にとって唯一の弱み。
君を盾にされると、俺は見惚れて何もできない。
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惚れ薬
(カルロー白河ー!俺、やったよぉぉおぉ)
(泣くなよ、うっぜ)
(暑苦しいよ)
(え、ひどくね?)
((…お幸せに。))
(…っ大好き!!)
確かに恋だった