ill wisher
他人の不幸を願う人

「ねぇ、聞いて亮介!」

いつものように明るい声で話しかけてくるのは、椎名遊夜。こうやって喋る時間は嫌いじゃない。けど、その話の内容が俺は大嫌い。

「さっき、伊佐敷くんにおはよって言えたの!」
「ふーん、良かったね」
「返してくれたんだよ」

そりゃ返すでしょ、挨拶なんだから。なんてセリフ、キラキラ輝いてる遊夜にはとても言えない。この子は本当に純粋で、素直で、素敵な女の子だ。なのに何で純なんかに片思いしているのか、さっぱり分からない。

「俺には?」
「え?」
「今、朝なんだけど」
「…あっ亮介おはよ!」

満面の笑みで言う遊夜。あぁ可愛い、どうしてやろうか。気付いてないだろう?いつも恋愛相談にのっているこの俺が、実は遊夜を好きで仕方ないなんて。

「おはよ、遊夜」

まぁそんな事、絶対に言ってやらないよ。遊夜とぎこちなくなるくらいなら、俺は遊夜を応援する振りをするだけ。

「でね、放課後はばいばいって言いたいの!」
「言えばいいじゃん」
「それが難しいのーっ」

本当に賑やかな子、見てて飽きない。今すぐ連れて帰ってやりたい。

「あ、純だ」
「えっ!!」

教室の扉が開き、入ってきたのは伊佐敷純。それを見て遊夜は顔を真っ赤にし、物凄くときめいている。

「…かっこいい!」
「わかんないなー」
「えぇ!分かるでしょ!」

毎日毎日同じ反応。同じクラスだからいつも顔を合わせるのに、純に会う度にニヤける遊夜。正直良い気はしない。

「それより遊夜、今日日直じゃないの?」
「あ!忘れてたっ」
「早く行きなよ」
「うん!じゃあね!」

遊夜は立ち上がり、職員室目掛けて駆けていった。落ち着き無さ過ぎ、でもそこが可愛い。本当に俺はおかしいくらい彼女に溺れてるみたい。この気持ちはどうしようもない、純に遠慮なんかする気もない。純が気付いていないなら、奪い取るまでだよ。

「りょ、亮介聞いて!」

ガラッと扉が勢いよく開いたと思ったら、さっき出て行ったはずの遊夜が汗だくになって満面の笑みで立っていた。何か良いことでもあったんだろうか。

「どうしたの?遊夜」
「今日の日直ね、伊佐敷くんとなんだよ!」
「あ、そうなんだ」
「亮介に報告したくて、走ってきちゃった」

えへへ、と遊夜は首を少し傾けて笑った。あぁ、なんて可愛い生き物なんだろう。俺に早く言いたくて走って来たんだ?そんなにも息を切らして?純と日直なんて気に食わないけど、遊夜の言葉は本当に嬉しい。

「…それでね?亮介」
「うん?」
「今日あたし伊佐敷くんに告白しようと思うの」

顔を赤らめて遊夜は言った。けど俺は驚き過ぎて、そんな遊夜に何も言えなかった。純に告白?冗談じゃない。こんなにも可愛い遊夜に好きなんて言われて、断る男なんてこの世に存在する訳がない。

「…ふーん」
「うん、でね」

すらすらと話す遊夜の言葉は、右耳から左耳へと全て流れた。

俺は遊夜の幸せなんて願ってあげないよ。だって俺は遊夜と幸せになりたいんだから。

「遊夜」
「ん?」

名前を呼ぶと素直に顔を上げる遊夜に、自分の唇を押し付けた。

「…っ!?」

急な展開に遊夜は混乱して、微動だにしなかった。全くと言っていいほど抵抗せず、硬直。慣れてないことが伺えて、余計に愛おしく感じた。

「遊夜は可愛いね」

唇を離し、ふわりと緩く微笑む。教室が一瞬にしてざわめいた事にもかかわらず、おそらくファーストキスを奪われたであろう遊夜は、ただキョトンとしている。

「…え、今、何が起こったの?」
「俺の気持ち伝えたの」
「だって、亮介は、あたしのこと…応援…」

泣きも、喚きもせず、状況を理解しているかも分からない遊夜は、指先で唇をなぞる。

「…遊夜は可愛いね」

呆然と突っ立っている遊夜に、俺はもう一度同じセリフを囁いた。





ill wisher
他人の不幸を願う人

































(…や、)
(『や』?)
(焼きそばパンの味がしたよ、今)
(…さっき食べたから)
(朝に焼きそばパン!?)
(…突っ込み所そこ?)

確かに恋だった
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