velvet glove
うわべだけの優しさ
本当は、嫌だ。こんな関係やめたい。けどやめられない。どんな形でもいいから、君と繋がっていたいんだ。
「…ごめんね、御幸」
彼女は申し訳なさそうに、俺に謝る。もう聞き飽きたくらいの、謝罪。
「遊夜は悪くないって、悪いのは俺だよ」
「そんな事ないよ!」
涙目になってる遊夜がとても愛しい。俺達は付き合っているんだ。その関係は他言禁止の秘密であり、そして、
俺は遊夜の二番目の恋人でしか居られない。
「…遊夜、携帯光ってる。彼氏じゃん?」
「い、いいの、今日は」
「喧嘩でもしたの?」
「哲が悪いんだもん…」
そう、遊夜の本当の恋人は哲さんだ。そして哲さんと遊夜は同い年。練習試合を見にきた遊夜に一目惚れをしてしまった俺は、今回のように喧嘩して弱っているところにつけ込み、二番目の相手になった。
「早く仲直りしろよ?」
「…ん」
嘘。本当は仲直りなんてしてほしくない。いっそのことこのまま別れてほしい。けどそんなの言えるはずもない。俺は遊夜の幸せを願わなきゃいけないし、哲さんは尊敬できる人だから。
「御幸、ごめんね」
また、謝る遊夜。哲さんと喧嘩になった時や、練習で忙しいからと放置された時に限って俺の所に来る事を俺は知っている。そして遊夜も俺が知っている事に、気付いてる。
「キスしていい?」
「…いいよ」
俺は遊夜に深く口付けた。全部忘れさせたかったし、忘れたかった。遊夜と触れ合ってる間だけ、遊夜が俺のモノになった気がした。
とんだお門違いの、自己満足だと自分で思う。
「…っ遊夜」
自分を蔑めば蔑むほど、とまらなくなる。
「み、ゆ…っ」
名前を呼ばれれば呼ばれるほど、欲情する。
キスマークはつけないで、哲に見つかったらやばいから、と遊夜はいつも言っていた。けどなぜか今日は、どうしても約束をやぶりたかった。
「…ちょ、御幸!」
名前を呼ぶ声を無視して、遊夜の白い首筋に吸い付いた。するとすぐに描かれた、赤い刻印。俺はそれを見て、口の端だけで小さく笑った。
「御幸?…今日変だよ」
「別に、いつも通り」
「違うよ!…っ」
ウルサイ。俺は遊夜の唇を手で塞ぐ。遊夜に馬乗りになった状態で、見下ろした。
「…御幸?」
手で隠していても、少しだけ聞こえる遊夜の声。
「泣いてるの…?」
え、
俺は驚いて、自分の瞳に手をやった。すると生ぬるい液体が、指先にふれたのが分かった。
「…なんで」
「御幸、」
呆然としていると、遊夜が上半身を起こしてぎゅっと俺を抱きしめた。あたたかくて、心地良くて、また涙が出た。
「ごめんね…好きだよ」
本当に小さな声で呟いて、遊夜は自分から初めて俺にキスをした。
「ごめんな…遊夜」
知っていた。このキスに遊夜の温もりが感じられない事を。愛情のキスなんかじゃない、同情のキスだって事を。
「遊夜、愛してる」
二番目でもいいから、俺を愛して。
velvet glove
うわべだけの優しさ
(いつかはこの関係も、終わっちゃうんだね)
(そりゃそうだろーな)
(御幸、ありがとう)
(…俺は遊夜の幸せを願ってるから)
たとえ君の相手が、俺じゃなくても。
確かに恋だった