自信を持てないお姫様


「…ねぇ倉持」
「あん?」

授業中、隣の席の椎名がひそひそ声で俺に話しかけてきた。

「ちょっとノート見せてよ」

自分の席から身を乗り出して俺のノートを見る。急に近くなった距離に、俺の顔は思わず熱を持った。

「ノートなんかとってねーよ」
「えーもう」

椎名は不満そうに席に座り直した。ぶーと頬を膨らまして、バカ、なんて言ってきやがるから

「…っせーよ」

まだ心臓がバクバクいってる。可愛い。めちゃくちゃ可愛い。何を隠そう、こいつは俺の好きな女だ。

片思いなんてだせーけど、椎名が可愛すぎるのが悪ぃんだよ。

「テストで赤点とるよ?」
「俺はいつもギリギリセーフだよ」
「受験どーすんのよ」
「野球終わってから考える」

そう言うと、椎名は吹き出した。

「倉持らしいね」
「…っ」

だから、そーいう顔がやばいんだよ。教室とか授業中とか友達とか関係なく、襲いたくなるんだっの。

「あー…そーいやさ」
「ん?」

俺も椎名も先生にバレないように、黒板を見ながら話す。

「お前この前の試合来てたろ」
「あー行ったねえ」
「ちゃんと俺の活躍見てたか?」
「いや全然」
「おま…っ」

思わず椎名の方を見ると、椎名はこっちを向いてニッコリ笑った。

「嘘。盗塁ばんばん決めてんの超かっこよかったよ」

…反則だ。

何だこいつ。俺のこと殺す気か?ここで襲ってもいいってことか?

「ちょっと、何か言ってよ」

黙り込む俺に恥ずかしくなったのか、椎名は少し不満そうだ。そんな表情ひとつひとつに惹かれてしまう。

「…あのさ」
「あ!ねぇ倉持、あたしの友達が倉持紹介してほしいって言ってんの」
「は?」
「可愛い子なんだよー」
「いや、」
「彼女いないでしょ?」
「いねー…けど」

ちょっと待てよ。何だよそれ。

友達を紹介する?俺が他の女とうまくいってもお前は全然平気ってことかよ。

「けど、何?」
「ちょっと待てよ」
「好きな子でもいんの?」

いるよ、お前だよ。なんて、こんな状況で言える訳ねーだろ。

ふざけんなよ。

「倉持?」
「…っせんだよブス!」

条件反射で俺は怒鳴っていた。

やべ、やっちまった。だってあまりにもこいつが無神経なこと言いやがるから、なんて俺の気持ち知らないこいつは悪くもなんともないんだけど。

けど、耐えられなかった。

「…悪かったわね」
「え」
「どうせあたしはブスよ、だから可愛い子紹介するっつってんでしょ!」
「いや、今のは」
「あたしがどーゆう気持ちで言ったかも知らないくせに!」

椎名は涙目になって、俺を見つめていた。手は震えていて、顔は真っ赤に染まっていた。

今の言葉、どういう意味だ?

「…ごめん、泣くなよ」

気付いたら椎名は泣いていて、そんな顔さえも可愛いと俺は思ってしまった。

「どうせあたしは可愛くないわよ」
「……」
「そんな事知ってるもん」

まるで拗ねた女の子みたいで、急に大人っぽくなったり子供っぽくなったり、こいつはずるい。

「…お前は可愛い」
「え?」
「お前は可愛いって言ってんだよ!俺の知ってる女の中で、お前が一番可愛いんだよ!俺は椎名が」

好きなんだからな!

そう叫ぶと、椎名は目をぱちくりさせた。まばたきと同時に大粒の涙がぱたぱたと床にこぼれた。

「っちくしょ…だせぇ、俺」

ガキみたいな言葉で好きな女を泣かせて、逆ギレで告白って、何がしたいんだよ俺は。

「…からかってんの?」
「んな訳ねーだろ」
「本気で言ってんの?」
「本気じゃなきゃこんな恥ずかしい事するかよ」

俺は羞恥心のあまり手の甲で口を押さえた。椎名は驚きが隠せない様子で、口をポカンとあけて俺の方を見ている。

「…あたしなんかじゃ倉持に似合わないって」
「あ?」
「思ってたから…だから諦めなくちゃいけないって…思…」

そこまで言うと、椎名はまたポロポロと泣き出した。それは、俺は少しくらい、期待してもいいって事か?

「お前さ」
「…ん」
「俺のことどう思ってる訳」
「……」
「なぁ、椎名」
「…好き」

やばい、俺はどうやらこいつにハマり過ぎているようだ。

「俺も好き」

愛しくて仕方ない隣の席の可愛い女の頬に、俺は口付けた。
















自信を持てないお姫様




(はっはっは、お前ら今授業中)
(げ、御幸)
(しっかり見させてもらいました)
(お前ほんと趣味わりーな)
(倉持は趣味いいんじゃねーの)
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