笑顔を忘れたお姫様

「ねーねー御幸くん」
「聞いて!髪型変えたんだあ」
「クッキー焼いたの食べる?」
「今度遊びにいこうよ」

休み時間になるたび、俺の周りに群がる女達。正直スコアブックに集中できないしやめてほしいのが本音だ。

何より、うるさい。お前らの髪型なんていちいち覚えてないし、大してうまくもないクッキーなんていらないし、遊ぶ暇があったら練習をする。

「…はは、また今度な」

なんてそんな事を言うのはキャラじゃないから、言わないが。だって俺王子だしモテるし仕方ないじゃん?

「もう御幸くんいつもそればっかりー!」

可愛くもないのに頬を膨らませて女達は拗ねたようにどこかへ行ってしまった。よかった、やっとこれでスコアブックに集中できる。

ぺらぺらと目的の紙をめくり始めると、前の席に突然誰かが腰をおろした。

「よう御幸、相変わらずモテモテじゃねーか♪ヒャハ」

倉持だ。まぁこいつ以外にいねーんだけど。

「好きでもない女にモテても迷惑にしかならねぇよ」
「おー怖。その本性あの女の子達にも見せてやれよ」
「ジョーダン」

俺が鼻で笑うと、倉持はいけすかねー奴、と嘯きながら俺の足を蹴った。

「まぁお前の好みなんて丸わかりだけどな」
「はぁ?」
「お前自分で隠せてると思ってるわけ」

今度は倉持が鼻で笑った。そして俺の隣の隣の席をちらっと見て、合図するように顎を揺らした。幸い席の持ち主は今はいない、が

嫌な予感がした。

「あそこの席の子タイプだろ」
「おま…何で知って」
「ねぇ、御幸くん倉持くん」

ニヤニヤしてる倉持と焦る俺に声がかけられ、条件反射で見上げた。

「数学のノート、ある?」

そこの立っていたのは、正しく隣の隣の席の椎名だった。

「あー俺ないわ」
「倉持くんには期待してない」
「うっせ」
「御幸くんは?」
「あっ、俺…はもうちょっとだから自分で職員室持ってく」
「わかった」

用件が終わるとすぐに椎名は次の席にノートを回収しにいった。さすが仕事が早い。そして素っ気ない。

「ヒャハハお前慌てすぎだろ」
「びっくりしたんだよ!」
「案外わかりやすい奴」

俺の弱味を握ったのがよほど嬉しいのか、倉持は相変わらずニヤニヤだ。

「でも椎名ニコリとも笑わないのな」
「そこがいーんだよ」
「は?Mか?お前そうなの?」
「愛想振りまいてない感じ、すげぇ惹かれるんだわ俺」
「変な奴」
「うっせーよ」

シッシッと倉持を片手で追い払い、スコアブックをしまって数学のノートを取り出す。最後の一問だけやってない。

俺は頭は悪い方ではないし、さらさらとシャーペンをすべらしノートを仕上げる。倉持はそのようすを見て眉をしかめた。

「お前何でこんなんできんの」
「簡単だから」
「嫌味なヤローだぜ。写すから貸してくれよ」
「自分でやるから意味があるんだよ」

思ってもない事を言って、俺は席をたつ。

「提出してくるわ」
「椎名が困るもんな」
「一言余計なんだよ」
「いつもわざわざ職員室いったりしねーじゃん」
「お前も早くやって出せよ」
「椎名が困るもんな」
「うるせーよ」

散々倉持にからかわれながら俺は教室を出て職員室に向かった。その途中、ふらふらとノートを抱えて歩いている椎名が目に入った。

あっぶねー、今にもこけそうじゃん。

階段を降りようとした矢先、いきなり椎名の体が傾いた。

「おいおいまじかよ…っ」

バサバサバサッ

階段の真ん中にノートが全部滑り落ちた。

「大丈夫?」

ギリギリセーフで、俺は右手で手すりをつかみ左手で椎名の体を支えていた。

「び…っくりした」

椎名を階段の上に立たせると、俺は踊り場に駆け下りて散らばったノートを拾い始める。

「ごめん、御幸くん」
「いいよ」

パタパタと椎名も階段を降りてきて、ノートに手をかけた。

「……」
「……」

気まずい。こう言うときって何を喋ればいいんだ?女といるときはいつも向こうがペラペラ話すので困る。俺って案外情けない奴だったんだな。

「……」

無言の椎名。

サラサラの長い黒髪、整った顔立ち、細い体。

「…どしたの?」

思わず見惚れていると、ノートを全部拾い終えた椎名が不思議そうな顔で見つめてきた。

「…や、何でもない」

再び山積みになったノートの上に、持ってきた自分のノートを置くと俺はそれを抱えて歩き出す。

「いいよ御幸くん、私の係だし私が持ってくから」
「いいのいいの」
「でも」
「女の子に無茶させられねーから、かっこつけさせてよ」

そう言うと、椎名は顔を赤くした。かわいい。初めて見た。

「ごめんね」
「ちがう」
「え?」
「ごめんよりありがとうがいい」

椎名は驚いたように俺を見た。

「…ありがと」
「笑顔付きならなお良し」
「え?」
「椎名って笑わないよな」
「…」
「まぁそんなところがいいんだけど」
「それって、どーゆう」
「俺、椎名のこと好きなの」
「え」
「知ってた?」

俺がニヤッと笑うと、椎名は知らないよ!と叫んだ。

今までクールな椎名しか見たことなかったけど、今日はいろんな表情が見れる。とか言って今までほとんど喋ったことなかったけど。

「私、御幸くんていけすかない奴だと思ってた」
「おい」
「でも違うんだね」

椎名は相変わらずの無表情で俺の目をじっと見つめた。

「好きになっちゃった」
「……っ」

んな事、真顔で言われたら。

さすがの俺だって赤面だ。

「お前、そーいうことはもうちょっと笑顔で言えよ」

負けたくなくて、そのまま軽くキスをした。

「…不意打ち反則」
「椎名さんのその顔やばいね」
「は?」
「すげーそそる」
「はっ…ばっかじゃない」

椎名は赤い顔で、笑った。

「…っ」

その笑顔の方が反則。

「ちょ、もっかい笑って」
「いやよ」

あっという間に元の顔に戻り職員室に向かってスタスタと歩いていく椎名を、俺は慌てて追いかけた。













笑顔を忘れたお姫様




(御幸くんは常笑顔すぎんのよ)
(その方が便利よ?)
(…私以外に笑顔禁止)
(え、ヤキモチかわいい)
(うるさい離せバカ御幸)
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