甘党なお姫様

「じゅーんっ!!!!」
「うるっせえ!!!!」

とある日の昼休みの教室、自分の名前をいきなり叫ばれて勢い良く振り返る。そこに満面の笑顔で立っていたのは、案の定自分の彼女だった。

「純もうるさいー」
「遊夜よりマシだ!」
「は?絶対純だし!」
「ぜってぇ遊夜!」
「ずぇったい純!」
「二人共うるさいよ」

ギャンギャン言い合う俺と遊夜にスパッと言い放ったのは、もちろん亮介。むしろこいつ以外に誰がいるんだ。

「…ね、あたしね」
「…おう、なんだ」
「一気に小声だね」

誰のせいだ、誰の!というささやかな反論は心の中でしておいた。

「純のためにお弁当作ってきたんだ」

遊夜がふんわり微笑んで言ったセリフに、俺は目をぱちくりさせた。亮介なんか得意の毒舌も忘れて黙り込んでいる。

「…まじかよ」
「うん!」
「すげぇな遊夜!」

椅子から立ち上がり、教室中に響く俺の声。何故こんなにも驚いているかと言うと、俺の彼女、いわゆる遊夜は女子的な事柄が壊滅的に苦手だから。掃除、洗濯、裁縫、ましてや料理なんてもってのほかだってのに…

俺のために!!!!

「はいどうぞ!」
「サンキュー遊夜!!」
「あれ、俺の分は?」

弁当箱を見た途端、再び亮介がひょっこり顔を出した。相変わらずの営業スマイル。毎回思うが尊敬するぜ。

「小湊も食べていいよ」
「さすが椎名だね」

遊夜と亮介はニコニコしながら平和な会話を繰り広げている。俺は二人を無視して、弁当箱をパカッと開けた。

「…遊夜」
「ん、何?感動した?」
「…なんだこれ」
「何ってお弁当だよ?」
「…そうか」

俺は弁当箱の中身を凝視した。当たり前のように答える遊夜をよそに、亮介は弁当箱を覗く。

「お見事。全部おにぎりなんて遊夜らしいね」

さすが期待を裏切らない、と亮介は笑った。確かに料理皆無な遊夜が普通に弁当作れるとは思わねーけど、まさか主食から具材からデザートまで全部米…おにぎりだとは想像以上だ。

「純野球大変だから、炭水化物いっぱいとってほしくて!」

何も疑問を抱いていないその笑顔が眩しいぜ。

「…ああ」

やっぱり俺って愛されてんだな。こんな風に俺の事考えて、大の苦手な料理なんてしてくれて。

「サンキュー遊夜」
「どういたしましてっ」

へへへ、なんて笑う遊夜は更に可愛い。畜生、仮にも亮介がいる前でそんな顔すんじゃねぇ。

「頂きます」

両手を合わせた後、たくさんあるおにぎりを一つ掴み、かぶりついた。

「……?」

おかしい。普通、おにぎりはしょっぱいよな。塩とかかかってんだし。

…このおにぎり、すげー甘ぇんだけど。

「…っ遊夜!!」
「どうしたの?」
「これ、砂糖か!?」

頭によぎった調味料名を口に出した瞬間、遊夜と亮介は固まった。

「遊夜、間違えたの?」
「ううん、わざと」
「ちょ、オイ何でだよ!」
「だって…」

「「だって?」」

俺と亮介が疑問符を浮かべながらハモって問いかけると、遊夜はにっこりと笑った。

「あたし甘いの好きだから」






甘党なお姫様

(甘いのおいしいよね)
(じゃあお前これ食え)
(あ、それは嫌)
(何でだよ!!!!)











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でも優しい純さんは
きっと砂糖おにぎり
全部食べてくれる←

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