告白スポットで
あたしには好きな人がいる。けどその人はきっと、あたしを恋愛対象として見ていない。
「倉持先輩、こーんにーちはー!」
「相変わらずうるせぇな遊夜、ヒャハ」
放課後の廊下、今から部活に行くであろう倉持先輩とバッタリ遭遇した。ラッキー。だってあたしはこの人が大好きだ。
「相変わらずって!」
「いつもうるせーだろ」
「超物静かですもん」
「は?どこかだ」
ケラケラと笑う倉持先輩は本当に可愛い。そして野球をしている姿は猛烈に格好良い。
「あ、部活行くわ。またな!遊夜」
「…頑張って下さい!」
しかも年下のあたしなんかにも、めちゃくちゃ優しくしてくれる。あたしと倉持先輩は同じ体育委員で、それをキッカケに知り合った。話してみたら案外気が合って、それから見かける度に互いに声をかけている。
「もー…大好きだ」
あんなに格好良くてモテるのに気取らない。不器用に優しくて、あたしなんかの相手をしてくれるんだよ。
超好き。
だけど、あたしなんかじゃ絶対に彼女になんかなれっこない。だから…怖くて怖くて告白なんかできない。
あたしは一人悶々と考えながら、体育館に向かって歩いていた。今から体育委員の仕事で、体育準備室の整備だから。あたしのクラスとどこかのクラスの2つが今日の担当だが、もう一つがどこのクラスか忘れた。
第一みんな整備なんかサボるから、真面目に仕事するのなんてあたしくらいなんだけど。
ギィ…
「失礼しまーす」
誰もいない。まぁいいや、勝手にしよう。
箒を取り出し真面目に掃除を始める。
…何か寂しくないか、あたし。
「倉持先輩がいないと、つまんないな…」
ガチャ
「おい、遊夜!」
「はいっ!?」
急に扉が開いて名前を呼ばれ、キョドりつつも振り返る。その視線の先にいた人物に、あたしの目は更に見開いた。
「倉持先輩…?」
「実は俺のクラス、今日当番なんだよ」
「嘘っ部活は!?」
「抜けてきた」
委員会の仕事しねーと監督に怒られんだよ、と倉持先輩は言った。あたしは急展開に頭がついていかず、あたふた。
だって二人きりだよ、狭い個室に。大体人気のないこの体育準備室は告白スポットなんだよ。あぁもう、ドキドキしすぎて死にそうだ。
気をそらすためにせっせと箒で床を掃いていると、倉持先輩は掃除用具入れからちりとりを取り出して、あたしの足元に屈んだ。
「ん」
「あ…どうも」
手伝ってくれてるんだ。やっぱり優しいな。
「何だよ遊夜、珍しく素直じゃねーか」
「いや、先輩には言われたくないんですが」
「あん?」
なんとなくいつものノリで言い返してみただけなのに、倉持先輩からは予想外の一言。
「俺がいねーとつまんねーとか言ったのは、どこの誰だったかな」
「…っな、」
何で知ってんだよコイツー!!!!!!!!!
「ばっちり聞こえた」
「う、うそん…」
「ヒャハハ!」
確かにあたしが呟いた後、すぐに倉持先輩が入ってきた。でもまさか、あの超恥ずかしい独り言が当の本人に聞かれてたなんて。
あたしのバカー!!!!!
「忘れて下さい…」
「は?ぜってーヤだ」
「なん……っ!?」
否定の言葉に刃向かおうとして顔をあげた瞬間、何も言えなくなった。
だって唇を塞がれたから。倉持先輩の唇で。
「…ん、っあ」
自分のものとは信じがたい声が漏れる。聞いた途端、恥ずかしさで顔が火照った。倉持先輩の胸を押してみても、ビクともしない。
舌が絡み合って、滴が口元から流れていく。自分の体がどんどん熱くなっていくのが分かった。唇を離そうと体を引いても、倉持先輩は追いかけてくる。
制服の裾がたくりあげられた。あたしは次の瞬間、無意識に目の前の倉持先輩を思い切り足で突き飛ばしていた。
「…っはぁ、はぁ…何すんですか先輩!」
乱れる呼吸を整えながら、悪びれもせずに怒鳴る。だっていきなり襲ってきた倉持先輩が悪いんじゃん。多少足蹴にされたくらい別に。
「くっ…ナイスキック」
「どうも!ってそうじゃなくてですね!」
片手で蹴られた腹を押さえながら、もう片手の親指でグッジョブポーズをする倉持先輩。あたしとしたことがノリ突っ込みしちゃったよ。
「わかんねえ?」
「え?」
「言葉にしねーと」
「…はい?」
「やっぱ鈍いなお前」
倉持先輩は苦笑しながらぐりぐりとあたしの頭を撫でた。それだけでもあたしの顔は火照る。
「好きじゃねぇ奴にキスなんかしねーよ」
「…あ、はい」
「意味分かってんのか」
「…あ、はい」
つまり…、つまりそれってあれだよね!?
「あたしも好きです倉持先輩!大好き!」
「ヒャハ、知ってる」
言葉よりも先にキス。不器用なあたし達なりの愛の作り方。
告白スポットで
(倉持先輩エロい…)
(てかお前、先輩呼びすんじゃねーよ)
(え、いいんですか?)
(ん、呼んでみ)
(倉持)
(ちげぇだろ!!)
確かに恋だった