写真部の暗室で

「…何してんの亮介」
「見て分からないの?写真撮ってるんだよ」

そんな事は分かってます。今は昼休み、あたしの彼氏の小湊亮介は、どこで手に入れたのか一眼レフのカメラであたしを撮りまくっている。

「…何で撮ってるの?」
「なんとなく」
「…あ、そう」
「気にしないで」

いや、気になるよ。落ち着いてお弁当も食べれないんだけど。冷凍のハンバーグを口に運びながら思ったけど、亮介に反抗はできない。

彼女だけど立場弱いですよ、私。だって亮介こわいんだもーん。

パシャ、パシャ、と教室に撮影音が響く。生徒みんなの注目を引きつけていることなど全く気にせず、いつものニコニコ笑顔の亮介。

「よし終わり、遊夜」
「え、何」
「ちょっと来て」

立ち上がり、カメラを抱えてあたしの手をひいて教室を出る。あたし、お弁当の途中だったんだけど。

「ちょ、亮介」

はい無視。てゆーか、どこに連れてく気だ。



「入って、遊夜」

着いた先は、何やら暗い部屋。カメラや写真がたくさん置いてある。たぶん写真部の部室だ。

「何でこんなとこ?」
「まぁまぁ」

亮介は棚から何か道具を取り出し、ガチャガチャと作業を始める。

途端に、パッと部屋が真っ暗になる。

「え!?何、りょ、亮介どこ!!何したの!?」
「電気消しただけ。遊夜うるさいよ」

スパッと言い切られて思わず押し黙る。何も見えない中、ピチャピチャと水音が聞こえた。

「…亮介くん?何してるんですかね?」
「ん?写真の現像」

はい?君は野球部ですよね?勝手に部室入って勝手に道具使って…。いやさすが亮介だけど。

何で現像の仕方とか知ってるんですかね。

「あ、見えた」
「電気つけてもいい?」
「うん、つけて」

パチッと音をたてて部室の電気をつける、するとピンセットを持った亮介とそのまわりにたくさんの写真が見えた。

「わあ、凄い量だね」
「よく撮れてるよ。遊夜も見てみる?」
「うん!!……え」

ワクワクしながら写真を一枚手に取ってみる。そこには机に伏せて爆睡しているあたしの姿。

「な、なにこれ!」
「見て、この遊夜よだれ垂らしてる」
「言うなーっ!!」

次々と写真を見てみるが、体操着でバレーをしているあたしや友達と喋っているあたしや、さっきのようにお弁当を食べているあたしと、あたしばかりが写っている。

中には間抜けな顔のものも多々ある。

「もしかしてこれ、全部あたしなの!?」
「ちなみに全部今日の」

亮介はにっこり笑って付け足した。信じられない、百枚はあるだろうこの全ての写真が、あたしばかりだなんて。

「な、もったいな!」
「何が?」
「もっと他に良いもの撮ればいいじゃん!」
「遊夜より良いものなんて無いじゃん」

え。サラッと言った亮介の一言に、一気に顔が赤くなった。

「うん、寝てる遊夜も体操着の遊夜も話してる遊夜も食べてる遊夜も、可愛いね」
「…っ、ぅ」

最強の口説き文句。あたしは恥ずかし過ぎて顔がただ熱くなるだけで何も言えなかった。

「真っ赤になってる遊夜も可愛いよ」

更にだめ押し。これはもう亮介は私を殺す気ではないだろうか?

「…亮介、恥ずかしい」
「どうせならもっと言ってあげようか?」
「や、だめやめて!」
「まだ言い足りない」
「お願い恥ずかしい!!」

あたしが懇願すると亮介は、仕方ないなーと言ってため息をついた。

諦めてくれたみたいだ。と、安心した束の間、

「じゃあ、代わり」

手首を引かれ、キスされた。

「ーっ!!!!!」

思考回路パニック。慌てる私をよそに、亮介は唇を離す気配もない。

むしろそのままあたしの唇を割って、舌で口内を犯す。

やばい、クラクラする。酸素が足りない。それに亮介キス、うま過ぎ。

「……ぷはっ!!」

苦しさに表情を歪めると、やっと離れた唇。あたしは余裕もなくめいっぱい酸素を吸った。

「相変わらず遊夜は息の仕方がヘタだね」
「…亮介は相変わらずキスがうまいね」

ありがとう、といつもの黒い笑みが返ってきた。今の嫌みなんですが。

「惜しかったな」
「何が?」
「写真に撮りたかった」

亮介の言葉の続きに耳を傾ける。聞かなきゃ良かったと後悔した。

「キスしてる時の遊夜のエロい顔、最強に可愛いよ」

次の瞬間またあたしの顔が真っ赤に染まったのは、言うまでもない。





写真部の暗室で



































(ところで何で写真なんか撮ったのよ?)
(試合前にいつでも遊夜の顔見れるじゃん)
(………。)
(遊夜?)
(亮介大好き)
(うん、俺も)

確かに恋だった
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