先生の目の前で
やっぱりあたし、たまに思うんだけど。御幸と倉持って実はそーゆー関係?みたいなね。
「な訳ねーだろ」
「え、今声に出てた?」
「思いっきりな」
ビシッと御幸に頭をチョップされた。なんだか地味に痛いし。
「それより俺は遊夜の彼氏じゃねーかよ」
「浮気になるねえ」
「なるねえ、じゃねー」
「ヒャハ、お前ら今授業中なんだけど」
隣の席の御幸とボソボソ喋っていたら、御幸の前の席の倉持が入ってきた。今は数学の授業中。ハッキリ言って退屈である。
「なー倉持、遊夜が俺と倉持の仲疑うんだよ」
「は?椎名ありえねぇ誰がこんな変態眼鏡と」
「変態眼鏡とは聞き捨てならねーな」
「間違った単語はひとつも入ってねーよ」
「…仲良いね君達」
言い争う二人にバレないように呟いてから、黒板に向き直った。倉持と御幸は仲が良すぎる。いつも一緒だし。普通は御幸の彼女のあたしがそのポジションだろ、みたいな所に倉持は常にいる。
でも二人ともストレートのはずだから。いやそう信じたいんだけだけど。あー何か倉持にヤキモチ妬いてるあたしって情けないかもしれない。
「椎名さん!」
「え、はい?」
「何ボーっとしてるの!問2を答えなさい!」
数学の教師に甲高い声で促される。別にボーっとするくらい、良いじゃん。怒るならあたしの左でイチャイチャしてる御幸と倉持を怒れや。
「7.82π」
「…正解です」
あっさり言い当てると、数学教師は悔しそうな顔をした。フン、ざまーみやがれ。あたしに数学で恥かかそうなんて無理に等しいんだよ。
「相変わらず遊夜は頭いいなー」
「じゃないと変態眼鏡の彼女は務まんないよ」
「はっはっはっ、言ってくれるね」
倉持とイチャつき終えた御幸は小声で話しかけてきて、あたしは一切顔を横に向けずに応える。
「怒ってんの?」
「怒ってない」
「怒ってんじゃん」
遊夜ちゃん可愛い、なんて御幸が付け足すもんだからあたしはもっと不機嫌になった。いつもいつも御幸はあたしを見透かしてくるし、その上ムダに余裕しゃくしゃくなのが腹立つ。
「倉持にヤキモチ妬く価値なんてねーって」
「あん?おめぇに言われるとムカつくわ」
「遊夜ちゃーん、こっち向いてよー」
……。無視するあたし。たまには、これくらいの意地悪させてほしい。
「遊夜さん?」
…
「遊夜ちゃ〜ん」
…
「遊夜っ」
…
ちゅ
「は!?」
「あ、こっち向いた」
左頬に柔らかい感触を感じて、勢いよく振り向く。気付けば御幸はあたしのすぐ近くまで自分の椅子をひいてきていて、あたしの隣にいた。
てゆーか今こいつ、授業中にいきなり勝手にほっぺちゅーしたよね。
「何してんのあんた!!」
「だって相手してくんないんだもん」
「だもん、じゃねぇ!!」
「え、足りないの?」
「言ってねぇ!!」
「仕方ないなーもう」
「話聞けよ!!」
ヘラヘラしている御幸に怒鳴る。すると更にニヤッと笑った御幸が、あたしの頭を抱え込んでそのままキスをした。
「〜っ!?」
教室!!授業中!!周りから視線浴びまくってる!!
そんなあたしの焦りなんてお構いなしに、唇を離さない御幸。抵抗しても力じゃかなわない。
「…っ、…んん!」
ちょっとちょっと御幸さん、舌入ってマスヨ。
「あれ?遊夜?」
やっと離れた御幸が、クテッとしているあたしに問いかける。誰のせいでこんな意識モーローになったと思ってんだよ。
「大丈夫ー?」
「…みゆ…し…ね」
「え、なんて?」
分かってくるくせに!語尾にハートマークつけやがって!って怒鳴ってやりたいけどキスの名残でうまく喋れない。
「ヒャハハハ、お前らバカだろ」
うしろうしろ、と倉持が爆笑しながらあたしの背後を指差す。あたしと御幸は、呼吸を整えながら振り向いた。
「……椎名さん?御幸くん?放課後職員室に来なさいっ!」
「「…はい」」
あたし悪くないじゃん襲ってたの御幸じゃん。
くそー理不尽だ!御幸の変態眼鏡ーっ!!!!
先生の目の前で
(御幸、まじ死んで)
(またまたー嬉しかったく、せ、に♪)
(黙れ年中脳内花畑変態眼鏡男!)
(え、長っ)
確かに恋だった