騒がしい廊下で

「倉持倉持ー、次何?」
「あん?英語だ」
「あんた本文の和訳してきたの?」

休み時間、隣の席の倉持に問いかける。すると倉持はあたしの二言目を聞いた瞬間、机から出そうとしていた教科書をバサバサーと落とした。

「…忘れた」
「バーカ」

青い顔をする倉持に、亮さん風に呟いてみる。倉持の数少ない友達(笑)の一人のあたしは、野球部でコンビを組んでいる小湊亮介とも知り合いだ。倉持の真似をして亮さんと呼んでいる。

「やべー!!俺英語の山田に嫌われてんのに!!」

頭を抱えて叫ぶ倉持。ちなみに山田じゃなくて坂田なんだけどね。全然違う。そんなだから嫌われるんだよ。

「見せてあげよーか」

ノートを右手に掲げてニヤリと笑ってみる。あぁ親切なあたし。だって実は倉持が好きなんだもん。でもこの友達関係を壊したくないから告白なんかしない。

「まじ!?椎名様!!最高!神様!マリア様!」
「あはは〜もっと言えもっと言え」
「イエス様!お釈迦様!」
「それ褒めてんの?」

やっぱり倉持はあほだ。まぁそれでも大好きなんだけど。

ガリガリとノートに写す倉持を見ながらあたしは頬を緩める。あーやばいかっこいい。こんなに倉持に感謝されるなら宿題の一つや二つ、七つや八つ……って

「あ」
「どした?」
「英和辞典忘れた」

やってしまった、あたしとしたことが。今日、当たるのに。

「倉持半分かして」
「半分って何だよ!」
「ビリッと半分に…」
「辞典の意味ねぇな!!」

わざわざ手をとめて突っ込んでくれる倉持にジーンとした。いや、でも今のは冗談デス。

「嘘。使うときだけ見せてくれない?」
「やだね」
「は?」
「やだ」

やだ?今こいつ嫌っつったよね?ノートかしてあげてんのに!!

「…っ死ね!!」
「俺は後百年生きるぜ」

あ、やばい今この減らず口の倉持にかーなーりイラっときた。死んでほしくないけど、死ね!!

「いいもん!亮さんに借りてくるから!」
「ちょ、オイ椎名!」

べーっと倉持に舌を出して教室の扉をぴしゃりとしめる。ふん!倉持のバカ!もう知らない。

亮さんに話聞いて貰うんだからーっ!

眉間にしわを寄せたまま三年の教室に向かって廊下を早足で歩く。時折目に入るカップルに余計にイライラした。学校で見せつけんじゃないわよ!あたしだって倉持が…

グイッ

「椎名!!」

突然腕を引っ張られ、驚いて振り向くとそこには倉持が立っていた。

「な、何よ」
「行くな」
「なんで」
「…何でって」

手を握られていることに動揺する。自分の体温が徐々に上がっているのがモロに分かった。赤くなっている顔を隠すようにうつむく。

「亮さんはな、お前のこと狙ってんだよ!」
「…嘘だあ」
「嘘じゃねーよ!」

ドクドクドク。心臓がやけにうるさくて速い。やばいこれはもう死ぬかもしれない。

「か、関係ないじゃん。離してよ」

バカモチ、と言いながら握られていた手をピッと振りほどく。

「…関係ある」
「は?」

いま、なんて?

「だーっ!!クソ!俺はお前が好きなんだよ!」

いきなりの言葉に思わず顔をあげると、目の前には真っ赤になった倉持。

「…え」
「関係あんだバーカ!!」

だから行くな。そう言う倉持が愛しくて。

「…はい」

素直に頷いてしまっている自分がいた。倉持は顔を赤くしたまま満足そうにあたしの頭をガシガシと撫でた。

笑ってる。うあ、これはもうやばい。

「戻ろーぜ椎名」
「く、倉持」

くるりと2‐Bの教室に方向転換する倉持に、声をかける。

「好き」

倉持の背中に向かって、思い切って言った。途端に勢い良く振り向いた倉持の顔は、ポカンとしていて。何だか笑えた。

「倉持、好きだよ」
「…まじすか?」
「まじっす」

口あいてるよ、倉持。可愛くて愛しくて、自然と微笑んでしまった。

「よ…っしゃー!!!!」
「ちょっ!?」

次の瞬間、ひょいと軽く体を持ち上げられた。倉持の目線とあたしの目線が、あたしの顔よりも下で交わる。

「な、何すんの!?」

ここ学校だし。廊下だし。人いっぱいだし。周りからの視線が痛いし。さっきまでイライラしてたバカップルみたいに、今あたし達なっちゃってるんじゃないかな?

「好きだ!椎名!」
「…バカ」

真っ赤な顔で呟くあたしに、倉持は深く深くキスをした。

「…バカもち。エロ」
「バカバカうっせー」
「好きだバカ」
「俺もだバカ」

もう、バカってあたし達には愛の言葉。





騒がしい廊下で

































(倉持、遊夜、ここ三年の廊下だよ)
(げっ。亮さん!)
(あ、亮さんこんにちは!元気ですか?)
(うん、相変わらず遊夜は可愛いね)
(…俺のっすから!)

確かに恋だった
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