授業中に屋上で

あたしには彼氏がいる、もう大好き過ぎて仕方ない。見た目は可愛いその彼氏は、実は腹黒。

「ねぇねぇ小湊くん」
「クッキー作ったの!」
「野球頑張ってねっ」

…え?この黄色い声?あたしじゃありません。

「ありがとう、みんな」

キャーッと騒ぐ女子集団。うっさいんだよ、ボケ。スカートの短い女の子達に囲まれているのはあたしの彼氏、小湊亮介。外見は可愛い、それに野球部レギュラー。モテる要素は充分で、毎日こんな調子。嫌がる素振りも見せずにニコニコしてるし。

「…いーもん」

あたしはその輪の中には絶対に入らない。彼女だけど、彼女だから、入りたくない。もー!!亮介のばかー!!!!

「オイ、お前今すげぇ不細工な顔してんぞ」

むー、と膨れるあたしに声をかけたのは伊佐敷純。だって純の席に座っているのはあたし、そして純は席の前に屈んで机に頬杖をついている。亮介が女の子に囲まれている間あたしは、実は優しい純に愚痴を聞いて貰う毎日である。

「元からこんな顔なんですう〜」
「うわっ可愛くねぇえ」
「可愛くなくて結構」

あぁ、今すぐあの女の子達に「亮介は実は腹黒いんだよー」って教えてあげたい。けどそんな事したらあたしの安否が心配だからできない。亮介に殺されちゃうよ。

「そんな妬くくらいなら亮介に言ってこいよ」
「な!?妬いてないし!」
「どこかだよ」

純に冷静に突っ込みされると何だか悲しい。でも妬いてない訳ないし、あたしの否定の叫びもただの遠吠えだ。

「気付いてんのか?」
「何が」
「お前と話してると亮介が睨んでくんだよ」
「…嘘」
「嘘つくかよ」

嬉しい一言を聞いてしまった。だけど手放しでは喜べない、信じるのも何だか悔しい。だって亮介を好きなのはいつもあたし、あたしの方が絶対に亮介を好き。ヤキモチ妬くのもあたしだけ。

「…あたし、行く」
「は?どこにだよ」
「屋上」
「もう授業始まんぞ!?」
「気分悪いから」

頭が混乱してきたので、とりあえず授業をサボることにした。慌てる純を置いて、あたしは教室を出る。ボーっとした意識とは裏腹に、足は上に向かって進んでいく。


がちゃ

「…風、きもちー」

チャイムが鳴った。きっと今頃1時間目が始まっている。こんな簡単に授業をサボっていいものだろうか。

誰もいない屋上で、ひとりゴロンと寝転がる。大して意識のなかった頭の中に、再びさっきの映像が蘇る。

あーイライラしてきた。ムカつくムカつく、あの女の子達。亮介のこと何も知らないくせに。可愛いからだ?野球部レギュラーだからだ?そんな理由でタカってんじゃないわよ。ふざけんな。あぁもう無理。あたしはガバッと立ち上がり、フェンスに駆け寄り手すりを思い切り掴み、叫ぶ。

「亮介はねー!!!!見た目可愛いけど野球してたら超格好良いんだよっ!!あたしはそのギャップにやられたんだよー!!!」

沸点に達した苛立ちを、空に発散する。

「レギュラーになんのだってむちゃくちゃ努力してたし、どんだけ頑張ってたかも知らないくせに!!!!知ったような事言ってんじゃないわよ!!あたしなんか毎日練習こっそり見てたんだから!!!」

次から次へと出てくる言葉は女達への暴言か、それとも亮介へのラブレターか。

「大ッ体あの笑顔に裏がないと思うなよ!!亮介は実は物凄い大魔王なんだよー!!見た目に騙されてんじゃねえ!!!!!けどそんなとこも全部大好きよ!!!」

叫ぶことに夢中になり過ぎて、あたしは気付かなかった。

「それにあたしは亮介の彼女なんだから!!あんた達より亮介が大好きなんだから!!気安く亮介に近付くなバカーッ!!!!!」
「でかい独り言だね」

屋上の扉のすぐ隣に亮介がいる事に。

「…りょ…すけ…?」

その時のあたしの顔は、真っ青。もうこれは病院に行ってもおかしくないくらいに真っ青。

「遊夜、顔青いよ」

恐る恐る振り向くと、そこには見慣れた亮介の姿。目が合った途端、冷や汗がダラダラと背中をつたるのが分かった。

「…い、いつから…いたの?」
「野球やってる所は格好いいとかいうとこ」

つまり最初からだ。あぁ、やってしまった。あたしは何てことをやらかしたんだろう。もう穴があるなら入りたい!

「遊夜、俺のこと大好きなんだね」
「い、言わないで!!」

あまりの恥ずかしさにあたしは顔を隠した。するといつの間にやらあたしの側に来ていた亮介に、手をとられた。

「いいじゃん。もっと言ってよ」
「い…言わない」
「ギャップにやられちゃったんだ?」

耳元で囁かれた瞬間、あたしの青かった顔は赤くなった。やばい、沸騰しちゃうくらいに体温が上がってきた。

「練習、毎日見てくれてたんだよね」
「…っそれは…」
「腹黒なところも全部、大好きなんだ?」
「、うっ…」
「遊夜以外の子は俺に近付いちゃだめだね」
「…りょ、すけ。もう言わないで…っ」

恥ずかしすぎておかしくなりそう。全部さっき自分が言った言葉なのに、亮介の口から繰り返されるだけで頭がクラクラする。恥ずかしくて恥ずかしくて、かつてない程に顔が熱かった。

「これは仕返し」
「な、なんの」
「俺が妬いてないとでも思ってたの?」

え、と言う暇もなく、亮介からキスが落とされる。抗うことは許されず、あたしも受け入れた。

「……っんん、」

今までしたどのキスよりも甘く、激しい。

「純と喋りすぎ。かなりムカつくんだけど」

唇が離れた瞬間の殺し文句。文字通り、亮介はあたしを本当に殺す気ではないだろうか。

甘過ぎて溶けてしまいそうだ。

「…じゃあ亮介は何で、女の子と喋るのよ」
「そんなの決まってるじゃん」

真っ赤になったままのあたしが唇を尖らせて聞くと、亮介はいつもみたいににっこり笑った。

「遊夜がヤキモチ妬いてるとこ、可愛いから」

あたしはやっぱりそのうち亮介に殺されてしまう気がします。






授業中に屋上で









































(俺も遊夜への愛を空に叫んでいい?)
(だ、だめ!!)
(なんで)
(恥ずかしいもん!!)
(じゃあ襲っていい?)
(…っ!!!!)

確かに恋だった
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