放課後の教室で
「なぁ、許してよ」
さっきからずっとあたしに頭を下げるのは、あたしの彼氏。髪は茶色でチャラい、何でこんなのと付き合ってんのか自分でもわかんない。
「何回目なのよ」
「もう絶対しないから」
毎回聞く、同じセリフ。浮気がバレたときに必ず言う。もうしない、なんて言って何回裏切られたんだろう。
「…わかった」
「良かったあー」
許しちゃうあたしもあたし。最初は泣いたりしてたけど、もう今は慣れたもんだ。彼氏は教室ということにも関わらず、あたしを後ろから抱きしめる。まぁ浮気話を教室でする時点でアウトなんだろーけど。
「遊夜、好きだよ」
「…うん」
もう全てが面倒くさい。この手を振り払う事も、教室から出て行く事も、こいつと別れる事も。面倒くさいから、しないだけ。どうせまた浮気するだろうし、おあいこ。
だって、あたしも浮気してるから。
あはは。なんてちょっとシリアスっぽく言ってみた。まぁ冗談じゃないんだけど。
「おい!そこの2人!学校で不謹慎なことをするんじゃない!」
「あ〜センセごめんね」
「ごめんじゃない!!」
相変わらずあたしを抱きしめている彼氏は、怒ってきた担任に軽く謝った。あたしは黙ってその様子を眺める。
「お前らは罰としてこの仕事やっとけ!!」
ほらきた。自分が楽したいだけのくせに。担任はそれだけ言ってさっさと行ってしまった。
「あたしやっとくわ」
「え、いいの?」
「いいよ」
「ありがと!!」
面倒くさい。あんたなんかとこんな仕事したら、どうせ途中からエロい事に発展するだけ。
そんなの面倒くさい。
パチン パチン、
放課後、あたしは暗い教室でプリントにホッチキスをうっていた。あたし以外に誰もいない教室。例の彼氏はさっそく浮気でもしているのではないだろうか。別に、もうどうでもいいけど。
「遊夜!!!!!」
「…あ、鳴」
急に扉が開いたと思ったらそこに立っていたのは成宮鳴だった。着ている野球部のユニフォームは、泥だらけ。
「手伝うよっ」
「いいよ鳴、練習は?」
「今終わったとこ!」
遊夜に会いたくて走ってきちゃった!なんて笑って言う鳴。彼氏には感じられない、愛しい気持ちがよぎる。
「鳴は、優しいね」
「遊夜だからだよ」
「…浮気相手なのに」
そう、鳴はあたしの浮気相手。あたしは鳴が大好きで、鳴もあたしを好きでいてくれる。彼氏と別れないのは、低能なあたしの彼氏が逆上して鳴を殴るかもしれないから。野球部エースの鳴に怪我をさせるなんて許されない。だからあたしはずっと鳴と秘密の関係を続けている。
「でも本命は俺でしょ」
自信満々に言う鳴。なんだか可笑しくって、つい吹き出した。
「あははっ…うん!」
「遊夜さ、放課後しか笑わないよね」
「え?」
鳴の言葉にキョトンとする。そんなの、考えてなかったから。
「教室でいつも遊夜見てるけど、ニコリともしないの!けど放課後は笑ってくれるんだ」
鳴は、嬉しそうに微笑む。あたしは、何で放課後にしか自分が笑わないか分かった。だってあたしは放課後しか、鳴といる事ができないから。
「鳴と一緒にいるから笑えるんだよ」
鳴との出逢いが、真っ暗だったあたしの世界を明るくしてくれた。鳴が、退屈だった毎日を変えてくれた。
「…遊夜大好き!」
ガバーッと抱きしめられる。鳴に触れられると幸せな気分になれる。あたしも鳴を抱きしめた。
「うん、あたしも」
言った瞬間、鳴から深い口付け。あたしは椅子、鳴は机に乗っかっているので、珍しく身長差がある。
「…ねぇ鳴、ずっとそばにいてね」
あたしは鳴がいるから生きていられるの。鳴以外何もいらないから。
放課後の教室で
(遊夜…俺もう無理)
(え?何が?)
(キスじゃ足んない)
(いや、ちょ、鳴)
(いただきまーす!)
確かに恋だった