salad days
経験の浅い青年時代

それは、突然に。

「哲ー今度の移動バスの事なんだけど…」
「な、なんだ遊夜!!」

同じ部活で同じクラスの結城哲也に、教室で部活の話を持ちかけた時だった。いつも通りにしただけなのに、哲は椅子から飛び上がるほどびっくりしていた。

「え?いや、バスのことなんだけど」
「俺は何も知らない!」
「知らない訳ないでしょキャプテンなんだから」

野球部のマネージャーを続けて3年目になるあたしは、哲のボケっぷりを理解しているつもりだった。けど、今回のはボケというよりかは挙動不審に近い。

「どうかしたの?」
「いや!!何も無い!!」

「逆に怪しいよ、哲」
「お前はもう寝てろ!!」
「うがうが」

疑問符を頭に浮かべるあたしと何やら動揺しまくりの哲に、突然声をかけたのは3年野球部員。ちなみに上から亮介、純、透ちゃんだ。

「ねぇ、一体どうしちゃったの?哲」
「気にしないで」

いや、気になるよ。亮介のその黒い笑みに何も意味が無い訳ないでしょ。でも言えない。亮介、怖すぎるから。えへ。

「椎名ちゃん、バスがどうした?」
「あ、透ちゃん。えっと今バス代上がってるから、これにまとめた」
「うが、ありがとう」

哲は使い物にならないのを見透かして、あたしは透ちゃんに用件の紙を渡した。それにしても哲、どうしたんだろう。

「遊夜!!俺は別に何も企んでないぞ!!」
「は?」

ビシッ

哲があたしに向かって焦り顔で言った瞬間、亮介が見事に哲の頭にチョップした。うわ痛そ。

「哲?余計な事言ってんじゃないよ」
「らっしゃぁあ!!!お前もう喋んじゃねえ!!!」

頭を押さえる哲に、亮介と純が詰め寄る。今の哲のセリフはそんなにもまずいものだったのだろうか。企んでる…って、あたしには何の話かさっぱり分からない。

「…変なの」

ちょうど昼休みが始まるチャイムが聞こえたので、あたしは騒ぐ4人を置いて教室を出た。


向かった先は購買。今日はお弁当がないし、さっさとパンでも買って女友達の輪の中に入ろう。

「遊夜先輩〜っ!」
「ぎゃー!!!」

長蛇の列の最後尾に並ぶと同時に名前を呼ばれたと思えば、急に背中から抱きつかれた。犯人が分かっているだけに、あたしは次の瞬間肘テツをかましていた。

「いってぇー!!!」
「ヒャハ、自業自得」

叫ぶ眼鏡と、笑うツリ目。こいつらは可愛い可愛い野球部の後輩達だ。

「毎度毎度、セクハラやめなさい御幸君!」
「だって遊夜先輩が可愛いから、つい」
「あたしのせいか!!」
「こいつには何言っても無駄っすよ」
「倉持君も見てるんならとめてよ!」
「ヒャハハ、今度から頑張ってみますわ」

説明間違えた、可愛い後輩じゃない。バカな後輩たちだ。いや、バカな子ほど可愛いって言うのかな?でもバカといえば、沢村君だよね〜。

「あ、そういえば君たちは知ってる?」
「何がっスか?」
「哲がさ、なんかおかしいの」
「いつもの事ですよ」

いやいや、サラッと失礼だな御幸君。まぁ確かに哲はいつもちょっとおかしいけど、今回のは意味が違う。

「哲さん隠し事とか苦手そうだからな〜」
「隠し事?」
「ちょ、オイ御幸!」

倉持君が御幸君を焦った顔で睨んだ。御幸君はヤベ、とか言いながら口を押さえている。隠し事?何の話だ?

「あ、遊夜先輩、順番回ってきましたよ!」
「ほんとだ。すいませんあたし焼きそばパン」
「俺はコロッケパンとあんパンと鮭おにぎりとサラダとそれから〜」
「そんなに!?」

すらすらと注文する御幸君をギョッとして見つめる。え、普通っすよ、と驚く御幸君だが、驚いたのはこっちだ。いやいや食い過ぎだろ。

「倉持君は?」
「俺は食堂っすよ、今日はラーメンとカレーと日替わり定食と〜」
「そんなに!?」

さっきのパターンをリピート。さすが野球部、どんな胃袋してんだ。

「あ、じゃあ俺デザートは遊夜先輩で…」
「あれー何も聞こえないなー!!じゃあねっ」
「ヒャハハ、さいなら」

御幸君の言葉を途切らせ、倉持君に挨拶をされて購買を後にした。ふぅ、さっきのは聞かなかったことにしよう。そういえば、隠し事って何の話だったんだろう。


廊下を走りながら教室に戻っていると、まだ着ている制服が比較的新しい三人組を見つけた。

「よっ、ルーキーズ!」

「遊夜先輩!!」
「先輩、こんにちは」
「…こんにちは」

上から沢村君、弟君、降谷君だ。沢村君だけクラスが離れているらしいが、たぶんお昼は一緒に食べているのだろう。

「何してんの?」
「飯食ってきました!!」
「え、もう食べたんだ」
「栄純君、4限目終わったら速攻来るんです」
「うわー想像つく!」
「カニ玉…無いです」
「そんなマニアなメニュー食堂にあるか!」

どうせこの子達も、あたしには想像つかない程食べたんだろうなーなんて思った。一年生といえどさすが男の子だ。

「先輩…今日、楽しみですね」
「え?」

降谷君が、相変わらずのポーカーフェイスを崩さずに呟いた。あたしは訳が分からず聞き返す。ぱーどぅん?高3だけど難しい英語なんてわかんないから。ぱーどぅん?

「バカ!!降谷!!」
「あ…これ言っちゃダメなんだった」

沢村君が降谷君の頭をぺちっと叩く。降谷君は痛くもなさそうに無表情のまま再び呟く。

まただ、よくわかんない話。今日こんな感じの会話いっぱい聞いた。あたし仲間外れじゃーん、何かつまんない。

「それ、何の話?」

気になって、降谷君に眉を寄せて近付く。降谷君は目を明後日の方向にそらした。沢村君を見るとわざとらしく口笛をふいている。なんて分かりやすい2人。内容はわかんないけど、あたしに黙ってみんなで何か企んでんだな、こいつらー。

「遊夜先輩、今の聞かなかった事にしてくれませんか?」
「えー…」
「お願いします」

弟君が必死な顔をしてあたしに頼んだ。やーん、なんて可愛いんだ。この子は本当にあの小湊亮介の弟なのか?あ、ごめん亮介、脳内で毒舌吐かないで。

「いいよ」
「ほんとですか!ありがとうございます」

その時の弟くんの嬉しそうなこと。つられてあたしまで口元が緩んだ。可愛い可愛い後輩に頭なんか下げさせたくないしねー、まぁ二年生ズはむしろあの高すぎる鼻をへし折ってやりたいくらいだけど。

「じゃあまた部活でね」

それだけ言い残し、にっこりと笑ってからその場を離れた。



「はぁ…」

結局なんだったんだろう、みんながあたしに隠してたことって。何であたしにだけ秘密にするの?寂しいなあ。さっきから、ため息ばっかり。

さっきまでの事が気になって、今日の放課後の部活は集中できなかった。選手の破れた服に花のアップリケをつけたり、水にポカリの粉を10袋いれたり、とりあえずボーっとしてミスを侵しまくった。

「なっさけな…」

三年なのに、後輩に示しがつかない。ちゃんと謝んなきゃやばいな、と思って監督に会うため野球部の部室まで歩いた。

ドアノブを握り、重たい扉を開く。

パンッパパンッ

「「HAPPY BIRTHDAY!!」」

突然聞こえた破裂音に、みんなのハモる声。あたしは訳が分からずに立ち尽くした。

「え?…えぇ?」
「18歳の誕生日、おめでとう遊夜」

混乱するあたしに、哲が歩み寄り声をかけた。今の破裂音は、クラッカー。そこであたしはやっと事態を理解した。

「そうだ、あたし今日誕生日だったんだ…」

すっかり忘れてた。じゃあ、これは野球部のみんなからのサプライズ?

「オラァ自分の誕生日忘れてんじゃねぇよ!!」
「うがうが、椎名ちゃんらしいな」
「全くバカなんだから」

純と透ちゃんと亮介が笑う。三人の視線の先には、派手に飾り付けられた部室の中にあるたくさんの料理たち。

「うわぁー…」

やばい、泣きそう。あたしはなんて幸せ者なんだろうか、今まで経験した中で、一番素敵な誕生日だよ。

「先輩〜、隠しててすいませんでした」
「おめでとうっす」
「御幸君ー倉持君ー」

潤んだ声をだしながら、2人に抱きつく。やっぱりこいつらも可愛い可愛い後輩達だよ。

「どうしたの?御幸、倉持、顔が赤いよ」
「ちょっ亮さん!!」

へ?と言いながら抱きついたままに顔を上げると、珍しく真っ赤になった2人が見えた。

「可愛いー!!」
「せ、先輩いてぇ…」
「肩外れますって!!」

思わず力の限り抱きしめる。うん、本当に可愛いよこいつら。あんな憎たらしい二人組のあんな顔見れちゃうなんて、ラッキー。

「遊夜先輩!」

そんなあたしにかけられた声。2人をパッと離し振り向くと、そこにはルーキーズがいた。

「誕生日、おめでとうございます!!!」
「無理なお願いしちゃってすいません」
「…18歳って、もう大人ですね」

沢村君、弟君、降谷君。こちらにも可愛い可愛い後輩達が三人。

「みんなありがとー!大好きっ」

にっこり微笑むと、ルーキーズは顔を赤くした。こちらは珍しくもない。けど、それでもやっぱり可愛い。

「ちょっと、遊夜」
「え?」

あたしの肩を亮介が叩く。ニコニコ笑ってるけど相変わらず黒い。

「抱きついたり、大好きとか言ったり、年下に甘すぎない?」
「何よ亮介ヤキモチ?」
「うん」
「え、」

意外な発言に驚くと、亮介に腕を引っ張られて頬にキスされた。わお。二度ビックリで、呆然としてキスされた場所を手で押さえた。

「誕生日プレゼント」
「「「亮介ー!!!!!!」」」

さらりと微笑む亮介に、突っ込む野球部員。あたしは、はははと笑うしかなかった。

「おい、遊夜」
「なに?て…つ」

ちゅ、と今度は亮介にされたのとは別の方の頬に哲にキスされる。

「俺からもだ」
「「「哲ー!!!」」」

両頬を手で押さえる。するとその両手に同時に温かい感触。うそ、今手にキスされた。

「「俺らからです」」

慌てて両側を見ると、そこにいたのはニヤッと笑った御幸君と倉持君。さっき勝ったと思ったのに、負けた気分だ。

「オラァ何やってんだお前らあぁぁ!!」
「うがらあ〜!!!」
「遊夜先輩がー!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「先輩…俺からも…」

「ちょ、えぇぇえぇ!?」

サプライズの誕生日パーティー。野球部のみんなから貰ったのは、たくさんの笑顔とキスの嵐だった。

まぁ、たまにはこんなのも良いか。みんなありがとう、大好きだよ。





salad days
経験の浅い青年時代

































あとがき

お題は「Evill Kiss」
という事でキスです。
だからこの8題は全て
キスで終わってます…
正直ALLでキスなんて
超無理矢理ですね(笑)

お気づきでしょうか?
今回の、『salad days
経験の浅い青年時代』
以外の話は男性視点で
全て書いてみました。
そしてこの最後の話を
ヒロイン視点で書きました

このような駄文ですが
みなさま、楽しんでは
いただけましたかっ?

良ければ感想やリクを
管理人に与えてやって
下さい!更新率は絶対
倍増します(^ω^)(笑)

それではまたの機会へ
確かに恋だった
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