キスじゃ死ねません

「倉持先輩?」

今日も名前を呼ばれる。俺よりかなり小さな背丈の女の子に、上目遣いで。ハッキリ言って理性を保つのが難しい。

「…何だよ、遊夜」
「怒ってます?」
「は?」
「顔、怖いです」

それはお前のせいだ!俺は高2、お前は高1、年下なんだからガキみてーに手ぇ出すわけにはいかねーんだよ。だから俺は必死になって冷静な振りしてんだよ!

「別に」
「…そうですか」

そっぽを向いて答えると、遊夜は少し寂しそうな顔をした。畜生、可愛い、ほんとは抱きしめたい。けどダメだ、大人気ないし、遊夜を怯えさせるかもしれない。

「あ、じゃああたし次体育なんで行きますね」

今さっきまで食べていた弁当を片付けて、遊夜は去っていった。何でこんなに時間たつのが早ぇんだろう、もっと長く一緒にいたいのに。俺も末期だよな、怖くて手も出せねーくせに、好きでたまらないなんて。

「…俺も、戻るか」

立ち上がり、遊夜とは違う階の二年の教室に戻った。もうすぐ授業が始まるはずだ。そう思って自分の席に行こうとすると、なぜか御幸が座っていた。

「何してんだ?倉持」
「いやそれ俺のセリフ」
「彼女から愛妻弁当とか、まじ羨ましーわ」

シクシクと泣き真似をする御幸。やべぇ、本気できめぇよコイツ。

「ヒャハ、そんなに上手くいってねーよ」
「え、不味かったの?」
「意味がちげぇよ!!」
「じゃあ何だよ」

御幸に相談事なんて持ちかけてたまるか。

「言わねーよ」
「…あそ。」

つまんなーい、と言わんばかりに唇を尖らせる御幸を退かして、自分の席についた。まぁ御幸の席は俺の前なのだが。

「倉持次、何?」
「んあー…数Tじゃね」

俺の予想アタリ。チャイムと同時に数Tの教師が入ってきた。あーあ、意味の分からねぇ眠くなる授業が始まった。

あ、シャー芯がねぇ。替え芯も見当たらねーし…しゃーない、ここは御幸に借りるか。

「御幸ー、シャーし…」

俺の言葉は止まった。御幸に声をかける際に窓から見えたのは、沢村と楽しそうに話す体操服姿の遊夜だったから。

「何だよ倉持、シャー芯かよ。Bでいいか?」

自分の筆箱を探り出す御幸。けど俺は応えられなかった。

あぁ、そうか確か同じクラスだったな。でも体育は男女別だろ?何で一緒にいるんだよ。

「…オイ、どした?」

喋んじゃねーよ触んじゃねーよ。遊夜は、俺のだぞ。

ガタッ

「倉持!?」

御幸が叫ぶ。クラスがざわつく。けど俺はお構いなしに席を立ち、グラウンドに向かって一目散に駆け出した。

野球部1の俊足、本領発揮してやる。

陸上部顔負けの速さで廊下を駆け抜け、靴も履き替えずにグラウンドに飛び出した。

「あ、倉持先輩!」

気付いた沢村が言った。隣に立っていた遊夜が驚いた顔で振り向く。イラッときた俺は、黙って二人の所まで歩いた。

「倉持先輩…え、今、授業中ですよね?」

遊夜は焦りながら俺を見上げてくる。いつもみたいに、上目遣いで。

「…先輩?」

けどもう遠慮なんかしてやる気、ねーから。

「…っえ!」

遊夜を沢村から引き離し、強引に唇を重ねた。呆然とされるがままの遊夜が、一瞬にして顔を赤くした。

クルシソウ。けど、離す気なんてない。

「…っ…んん」

何度も角度を変えて攻める。酸素を求めて表情を歪める遊夜。今じゃ、そんな顔もそそる。大人気ないなんて知るか。そんなもん糞くらえだ。

「…遊夜」

一度、唇を離して呟く。遊夜は目一杯に息を吸って、喋る余裕なんて全く無いように見えた。

良いな、コレ。俺で染まった感じがする。もっと、俺に溺れて欲しい。

「…せんぱ…あ、たし…死ぬ、かも」
「死ねよ」

やべぇとまんねぇ。苦しそうな顔をする遊夜をもう一度引っ張ってキスをした。限界まで舌をいれて、口内を犯す。唇を閉じようとしない遊夜に、欲情した。

どれくらいの間キスをしていただろう。遊夜が俺の腕の中でクテッとしているのが見えて、俺は唇を離した。ちょっとやりすぎたな。まぁいいか、死ねなんて言っちまった程だからな。

「く、倉持先輩!」
「悪ぃ、お子ちゃまには刺激が強すぎたか?」

真っ赤になっている沢村に向かってニヤッと笑ってやった。いい気味だ、遊夜に近付くからだよバカ。帰ってからサソリ固めしてやる。

「…倉持先輩」
「あ、遊夜」

何とか喋れるようになったのか、遊夜が小さく呟いて俺の肩を掴んだ。いつものように上目遣い。ほんと可愛いな、コイツ。なんて、少し俺は油断していた。

ちゅっ

気付いた時には、遊夜に唇を奪われていた。

「…は!?ちょ、」

完璧に不意打ち。やべぇ絶対今、顔赤いわ。

「ねぇ先輩?キスじゃ死ねません」

小悪魔みたいにニッコリ微笑む遊夜。やられた。やっぱり女は怖ぇ。

「いつ手ぇ出すのかなって思ってました」
「あー…それはだなー」
「魅力ないのかなって」

んな訳ねーだろ、魅力ありまくりだこの野郎。

「…バカじゃねぇの」
「うわひど」
「むしろキスじゃ足りねぇくらいだよ」
「…な」

サラッと言うと遊夜は真っ赤になった。形勢逆転、俺の勝ち。てゆーかコイツ可愛い過ぎ。





































(…いいですよ)
(あん?何がだよ?)
(ヤりますか)
(…っは!?)
(あ。赤くなった)
(遊夜!襲うぞコラ!)

確かに恋だった
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