何の実験かと思った

朝練を終えていつも通り教室に入ると、ピンク頭の小さい少年が微笑みながら携帯を見ていた。

「何してんだ?亮介」
「あ、純。遅かったね」

携帯から目を離し、話しかけた俺の方を見上げてきたのは小湊亮介。我が校野球部自慢のセカンドだ。ちなみにというと俺は、強肩誇るセンター伊佐敷純である。

「どうしたんだ?」
「え、何が?」
「いやなんか、携帯見てニヤけてるからよ」
「は?誰が?」
「…なんでもねぇ」

危ねー、ニヤけてるなんて亮介に言うとか俺もミスったな。あれ以上引っ張ってたら…うわ考えたくもねぇ!恐ろしい!いやでも亮介はいつも無条件でニコニコしてるが、さっきのは完璧に絶対にニヤけてたぞ。

「ねぇ純」
「な、なんだっ」

思いきりビクついた俺の肩。もしかして今の心の声、亮介に聞こえたか!?

「これ見て」

スッと差し出されたのはさっきまで亮介が眺めていた携帯。良かった、心の声は聞こえてなかったみたいだぜ。まぁ、さすがの亮介でもそんな事はできないよな。……いや亮介ならできる気がする。だー!もう考えないでおこう!おう!

「…なんだこれ」

携帯の画面に記されていたのは『あ痛い』という文字だった。痛い?何がだ?さっぱりわからん。というかこれを見て笑ってた亮介もわからん。

「面白いだろ?」
「いや、何がだ」
「たぶん『会いたい』って打ちたかったのに変換ミスったんだろうね」
「あー」

なるほど、そういう訳か。ところで

「誰からだ?」
「遊夜」
「……」

納得。あいつならこういう間違いとか素で侵しそうだな。

「可愛いでしょ?」
「…彼女には甘々だな」
「やだなぁ純」

亮介は、携帯を取り上げてクスッと笑った。

「遊夜の前では全然甘くないから、俺」

いじめっこだな、こいつ。確かに俺は亮介に、彼女の椎名の惚気をウザイくらい聞かされる。だが亮介が椎名自身に直接あまったるいセリフを吐いているところを一度も見たとことがない。

せいぜいイジメてんだろうな、それで可愛いなとか思ってんだろうな。あーなんか亮介って、案外わかりやすいわ。

「…りょ、亮介!」
「あ、遊夜」

教室の扉が勢いよく開いたと思ったら、隣のクラスの椎名がいた。

「あの、さっきのメールもう見ちゃった!?」
「なんのこと?」
「まだなんだ良かった」

……いやいやさっきまで見てたじゃねーか。すっとぼけてんじゃねぇぞ亮介この野郎。ホッとしてる椎名がなんだか可哀想じゃねーかよ。

「あ、」
「え?なに亮介」
「痛い」
「…っ見たんじゃん!」

椎名の反応を楽しむ亮介を見てると、思わず吹き出しそうになる。椎名をイジメてるときの亮介って、かなり良い顔してんだよなー。

「はは、でも突然のあのメールは驚いたよ」
「…す、すみません」
「何の実験かと思った」
「そんなに!?」

自分の席に座って、立っている椎名を見上げて微笑む亮介。椎名も椎名で、いじられてる癖に幸せそうに笑う。要するにコイツ等はSとMでぴったりなわけ。

「もう次は変換ぜったい間違えないからね!」
「別に良いじゃん」
「え、何でよ」
「だって間違えたから会いに来たんでしょ?」

ラブラブだな、オイ。亮介のツンデレ具合が更に甘くしている。こんな時にこんな所にいる俺はかなりお邪魔なんじゃねーかと本気で思う。

「…そうかも」
「遊夜はバカだね」
「ば、バカ!?」
「うん、バカだよね」
「二回言った!伊佐敷君何とか言ってよ!」
「俺にふるな!」

椎名は亮介から俺に視線を変えて必死に言う。そんな事するから亮介がちょっと怒ってんじゃねーかよ俺が怖ぇーよ。

「遊夜」
「え?、あ」

亮介は立ち上がって、教室のど真ん中なのに椎名にキスをした。

「…っオイ!!!!」

てゆーか第一、俺の目の前ですんじゃねえぇえぇ!!

「純顔赤いよ」
「誰のせいだよ!!」
「純なだけに純粋だよね、伊佐敷君って」
「…椎名」

お前、それはシャレか?まあ亮介はこんなオヤジみたいな発言をする椎名の一面もウザイくらい好きなんだろうな。俺にはわからねーが。

「遊夜、やっぱバカ」
「3回目だよそれ」
「バカの方が可愛いよ」
「…亮介ー!好き!」

一生やってろバカップル。



































(ひがまないで、純も早く相手見つけなよ)
(ひがんでねぇ!!)
(ほんと遊夜は可愛すぎて困るんだよね)
(話聞けよツンデレ!)
(は?)
(…っ何でもねぇよ!!)

確かに恋だった
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