約束してないから

あぁ嫌だ、まだ帰ってこない。遅いよ…いつになったら戻ってくるの。

「倉持…」

あたしはイライラしていた。ついさっきまで片思いの相手、倉持洋一と仲良く教室で喋っていたのに、あいつは女の子に呼び出されて行ってしまった。一年も二年も同じクラスの倉持があたしは大好きだ。しかも仲良し。よく一緒にいるからこんなの日常茶飯事だし、慣れたけど。野球一筋だからとか言って毎回告白を断る倉持。でもさ、そんなだからあたしもいつまでたっても告白できないんだよバカ。

「はあー」
「でけーため息、ヒャハッ」
「あ、倉持!」
「ただいまっと」
「おかえり〜」

よっこらせ、と当然のようにあたしの前の席に腰かける倉持。そこ、御幸の席なんだけどね。まあいいや知らなーい。

「…でさぁ」
「あん?」
「告白、だった?」

息をひそめて聞いてみると、倉持は笑った。

「まあな」
「断ったんでしょ?」
「や、保留にした」

え。
自分の表情が一気に強張ったのが分かった。何で?何で?何で?だっていっつもあんたは。

「そろそろ彼女でも欲しくなる年頃だしな」
「あ…は」

笑えない。うまく笑えないよ。そんな理由で?いやまだ付き合ったわけじゃないだろうけど、保留なんて初めてじゃん。本当にこのまま倉持に彼女ができたらあたし、どうすればいいの。

「…遊夜?」

人の顔をよく見ている倉持に張り付けた表情は通じない、なんて

「なん、でもないから」
「嘘つくなよ」

長い間友達をやってるあたしはよく分かってるはずだったのに。

「…あたし、用事あるから帰らなきゃ」

見ないで。今倉持に見られたら気持ちを全部見透かされそうで恐い。あたしは勢い良く立ち上がって、鞄も持たずに教室を出て、そのまま学校を飛び出した。後ろであたしの名前を呼ぶ倉持の声なんて聞こえない。見ないで見ないで見ないで、あたしの気持ちに感づかないで。


「…はぁ、走った」

帰宅部なのに全力疾走はきつかった。てゆーかここ、どこだろう。無我夢中で走ってきたから現在地がつかめない。近所で迷うなんてカッコ悪い。けど倉持に見つからずに済むなら、なんか別にどうでもいいかも。

「…あーあ、もう顔合わせらんないや」

せっかく仲良かったのに。たぶん女の子であたしが一番倉持と仲良いよ。…けどそんな友達の定位置を無くすのが恐くて行動しなかった、意気地なしのあたしが悪いんだよね。でもね、それでも

「…っ、」

好きだよ。倉持。失恋なんかしたくないよ。

目尻から涙が溢れて頬をつたる。知らない街で迷ってるときに恋愛のことで泣くなんて、あたしってやっぱりバカ?

「大丈夫?」
「…えっ」

びっくりした。反射的に声をかけられた方に振り向くと、薬師の制服を着た男の子がいた。

「泣いてんの?迷子?」
「や、ちが…」
「迷子じゃないの?」
「迷子だけど…」
「え、どっちだよ」
「いや、えっとね」

実際あたし今泣いてるし、迷ってるし。こんな時に急に知らない男の子に声かけられても混乱するんだけどっ。

「迷子だけど…っ迷子だから泣いてるんじゃなくて、てか迷子迷子言わないでくれない!?」

迷ってるって言ってよ!仮にも高校生なんだから、なんて逆ギレしたら、男の子は笑った。

「ははは激アツ!あんた面白いな!」
「…嬉しくないから」
「俺、薬師高校2年の真田俊平!あんたは?」

ニカッと笑って真田は言った。やっぱり薬師の制服で合ってたんだ。しかもタメかよ。フレンドリーな奴に捕まったもんだなーあたしも。

「…青道高校2年の、椎名遊夜」
「え、まじ青道?」
「なにその反応」
「俺野球部!予選で青道に負けたけどな」

苦笑する真田の発した、野球部って単語にあたしは敏感に反応した。もしかしたら倉持のこと知ってるかもしれない。

「同じ学年にはー御幸?と倉持?がいたのは覚えてるぜ!知ってるか?」

ドクン。他人の口から名前を聞いただけで、あたしの心臓は揺れた。何でこんな所でまた泣きそうになってんだろ。

「…おい?」

歪み始めたあたしの表情に、真田は不思議そうな声を出した。

ヴー、ヴー

携帯が鳴った。あたしだ。ポケットから取り出してみると、ミニ画面に「倉持」と表示されていた。

「…っ」

どーしよ。出らんないし、このまま放って…

「って、えぇ!?」

ヒョイとあたしの手から真田は携帯をもぎ取り、通話ボタンを押した。いやいやコイツ、何してくれとんじゃ!

「もしもーし」

しかも出やがった!?

『おい遊夜!!お前今どこにいんだよ!』
「あ、倉持くんだ」
『…は?お前だれ』
「薬師の真田」
『何で遊夜の携帯にお前がでてんだよ?』
「遊夜可愛いから持って帰ろうかなってね」
『ふざけんなテメェ』
「おー恐いねー」

何話してんのか全然わかんないんだけど。

「真田!返して!」

真田の背が高すぎてあたしの手なんか届かない。挑発するような真田の言葉に冷や汗が出る。一体倉持は何言ってんの?

『遊夜いるんだな』
「声聞こえた?」
『…くそっ』
「あ、切れた」

はははと笑って真田は通話の切られた携帯をあたしに返してきた。受け取ると同時に、真田の頭を殴ってやった。

「いてぇ!」
「何してんのあんた!殴るわよほんと!」
「いや今殴っただろ」
「そんな事より倉持と何話してたのよ!」
「遊夜可愛いから貰っていい?って」
「は、」

マシンガンのように怒鳴っていたあたしの口は急にとまった。カッと顔が急に熱を帯びたのが自分でも分かる。ななな、何言ってんのよ真田。

「お、赤くなってる。やっぱりかわいー」
「可愛くないから!!」

何なのコイツ、むちゃくちゃペース乱される。

「もう黙って…」
「遊夜っ!」

焦るあたしの声にかぶさったのは…聞き慣れた声。間違えるはずもない、大好きな人の声。

「倉持!!!」

振り返った先には、携帯を片手に握りしめ、汗だくになって息を切らした倉持が立っていた。

「来てくれた…んだ」

無言でツカツカと歩み寄ってきた倉持は、目の前まで来た途端、あたしの手を掴んだ。いきなり触れられたことであたしの思考回路はパニクった。

そして倉持は、グイッとそのままあたしを自分の方に引き寄せて、真田を睨んで口を開いた。

「こいつは俺と今から御幸の実家に行く約束してんだよ!」

…はい?

「だからお前なんかには渡せねえよ!!」

いやいやいや倉持くん?明らかに嘘じゃん。御幸の実家にあたし達は何の用があるんですか。

「ははは!お前ら2人とも激アツだな!!」

笑う真田に背をむけて、倉持はあたしの手を引っ張ったまま歩き出した。なんだなんだ、変な状況過ぎないかい?

「遊夜!」

真田に名前を呼ばれて、振り返る。

「また会おうな!」
「…うんっ!」

満面の笑みで返したら、真田は手を振って帰って行った。よくわかんないけど面白い奴だったな、またどっかで会えたら良いのにな。

「…遊夜」
「ん?何くらも」

ち、が言えなかった。だって口を塞がれたから。しかも倉持の唇で。

「ー!?」

驚きの余り腰をぬかすかと思った。けどそんな驚きは、まだ余興。

「ちょ…っんん!?」

倉持の舌があたしの口の中に入ってきた。いくら唇を固く閉じようとしても意味はなくて、抵抗すればするほど倉持の舌とあたしの舌を絡まった。そしてやっと離れたと思った時には、口の周りはお互いの唾液でベトベトだった。

「ななな、何で…」
「…っムカつく」

ムカつく!?今何でムカつかれなきゃなんないの?あたしキス下手!?知ってるよ、そんなにした事ないからね!!

「なぁ、何で真田なんかと仲良くなってんだよ?お前が一番仲良い男は俺だろ!?お前はな、」

俺だけ見てりゃいいんだよ!!と、思いっきり怒鳴られて、あたしは目をぱちくりさせた。なにこれ、どゆこと。あたし期待していいの?

「…え、やきもち?」

冗談半分で呟いてみただけなのに、倉持は顔を真っ赤に染めた。

「わりぃかよ、俺はお前が好きなんだよ。お前以外と付き合う気なんてハナからねぇ」

…コイツ、あたしを殺す気?やばいあたし倉持にキュン殺しされそうだ。

「倉持ー…」
「んだよ」
「あたしも好きだよ」

知ってる、と拗ねたように言った倉持が、あたしは心から愛しかった。



























初あとがき:
長くなりましたーあ。
遊夜様読んで下さり
有り難う御座いました
駄文ですが…少しでも
楽しんで頂けたならば
幸せこの上ないです。
真田君だいすきだーい

確かに恋だった
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