もしかして初恋?

いつからだろう、呼び方が『哲くん』から『結城先輩』に変わってしまったのは。気軽に、好きと言えなくなったのは。


「遊夜」
「何ですか?結城先輩」
「…いや、何でもない」

哲くん、じゃない結城先輩はプイっとあたしから顔を背けた。2つの年の差はあるものの、幼なじみのよしみで未だに一緒に登下校したりする。

「……」

はあ。気まずい。
話題もなくただ黙々と歩き続けるだけ。緊張して息が詰まってしまう。だってあたしは物心がつく前から結城先輩…哲くんが好きだったから。さすがに高校生なんて思春期なんだし、意識しない方が無理だと思う。ただの片思いだけどね?

「…あ、じゃあ朝練頑張ってくださいね」
「あぁ、じゃあな」

冷たい。いやこれが哲くんなのは分かってる。それでもやっぱり寂しい…あたしが高校生になってから哲くんは冷たくなった。あたしに触れなくなって、口数も減った。けどあたしは哲くんがどうしても好きだから野球部のマネージャーになったんだけどなあ。

「…哲くん」

自分の仕事をこなしながらも、朝から必死に練習する哲くんを眺める。あぁぁあぁカッコイイ、カッコよすぎだよ!もう好きすぎて恐いわ。

「ねぇ遊夜?鼻の下、のびてるよ」
「ぅえっ!?」

急に声をかけられ振り返ると、ニコッと笑みを浮かべた小湊先輩。嫌な人に捕まってしまった。

「色気のない声だね」
「…知ってます」
「今日の哲はどう?」
「相変わらずです」

そう、と小湊先輩は笑う。いやいや笑い事じゃないよ!小湊先輩はあたしが哲くんを好きなことを知っている。てゆーかなぜか気付かれた。それからは相談相手だ。

「哲はハッキリ言わなきゃ気付かないよー」

鈍チンだからね。付け足す小湊先輩を睨む。そんな簡単に告白できたら苦労してません。けど口には出せない。だって小湊先輩恐いもの。うふ。

「2個下なんて、相手にされませんよね」
「…そう思う?」
「は、いっ!?」

頷こうとしたら、身長が同じくらいの小湊先輩はあたしの頬にキスした。びっくりして目を見開いて、ポカーンとする。

「遊夜、口あいてる」
「いやいや先輩今何」
「突破口は開いたから」

クスクスと笑って小湊先輩は早々とどこかへ行ってしまった。突破口って一体なんのだ?言いたいことだけ言って、ほっぺちゅーなんかして逃げやがったよあの人!

「な…なんだったの」

キスされた右頬を押さえていると、急に地響きが聞こえた。ズドドドド、と駆け抜けるような音が次第に近づいてくる。

「…遊夜っ!」
「ゆ、結城先輩?」

汗だくになった哲くんが走ってきて、あたしの両肩を掴んだ。触れられている事に動揺する。え?なになになに!?近いし近いし、やばいよ!顔が熱くなってきた。

「大丈夫か!?」

…あ、こんなに焦ってる哲くん久しぶりだ。

「何がですか?」
「今、亮介が…」

あぁ、あのほっぺちゅー、見られてたんだ。え!?見られてた!?どどどどうしよう、誤解されたかもしれない。

「全然大丈夫ですよ!」
「そうか…遊夜は亮介と付き合って」
「なんかいませんよ!」

哲くんの言葉を遮った。やっぱり誤解されてた。もう、小湊先輩のバカー!!なんて、本人に言ったらきっと殺される。

「なら、良かった」
「え。」

良かった?それって、どうゆう意味…

「!?」

驚いた。だって今あたしは、両頬を哲くんの手におさえられて、少し背伸びさせられていて。あたしより随分と背の高い哲くんはしゃがんでいて。すぐ目の前には、哲くんの顔が見えている。
キス、されてる。しかもなかなか離れない。てゆーか息ができない。いやそんな事よりもあたし今哲くんと…キ、ス?

「っえぇ!?」

離れた瞬間、あたしは顔を真っ赤にして絶叫。

「遊夜、俺は昔から遊夜が好きだ」

夢?これは現実?

「…ねぇ哲くん…もしかして初恋?」
「そうだ」

少しだけ顔を赤くして頷く哲くんが可愛くて。敬語も先輩呼びも、全部忘れてしまった。

「…あたしも!哲くんが初恋で、今も」

大好き!!なんて叫んだら、哲くんは一瞬びっくりしてから、笑った。

「俺も、大好き、だ」

笑ってる哲くん。あぁこんな顔を見たのは一体何年ぶりだろうか。今なら幸せで死ねそうだ。

きっと、初恋は叶わないなんて嘘だよ。




























(いきなり口になんだ)
(!)
(毎日俺と遊夜が話してると覗いてたね)
(いやそれは…)
(照れすぎて冷たくなってたんだよね)
(亮介、すまん)
(ちゃんと大切にしなきゃ許さないよ?)

確かに恋だった
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