先にいただいてます

『御幸…助けてっ』

あたしは電波を通じて御幸に助けを求めた。確か、御幸は寮生活。けどあたしは通いだ。通いならではの、どうしても困ったことが今起きてしまったのである。

『おいっどうした遊夜?大丈夫かよ!?』
『あ、あのね…』
『おう?』
『鍵がないの』
『…は?』
『家の鍵がないのに今日親帰らないの!』

どうしよう御幸!野宿なんて嫌だよ!なんて半泣きで叫ぶと御幸は安心したように言った。

『来いよ、泊める』
『いいの?』
『俺練習あるから部屋入って待ってて』
『うん!』

ブツッと通話を切って携帯を閉じ、あたしは学校まで走って戻った。良かったあ、宿が見つかって。別に御幸は彼氏でもなんでもないけど、仲が良いからとりあえず御幸を頼ってみたあたし。だって何かOKしてくれそうな気がしたんだもん。

ガチャ

「お邪魔しまーす」

青心寮の中の御幸の部屋に入った、鍵はあいてたけど誰もいない。当たり前か、練習中だしね。

「…どうしようかな」

暇だなー練習見に行こうかな?けど鍵はあたしが来るからあけてたんだよね、鍵の場所わからないし出ちゃダメかな。うーん…どうしよう

「……寝たい」

何か色々考えたら眠くなってきた。御幸のベッドどれだろ?眼鏡ケースがあるからこれかな?御幸は寝る時とお風呂は眼鏡はずしてんだよね。あ、何か見たいなあ。まあいいやとりあえず寝よう、あたしは御幸の物と思われるベッドにのそのそと潜り布団をかぶった。



「…おい遊夜」
「もう食べれないよ〜」
「どんな夢だよ」
「デザートなら別腹…」
「食うなよ起きろ!」

ぱち、あたしの目がさめた。ガバッと布団から起き上がり、耳元で大声を出した御幸を見る。

「なにしてんの遊夜」
「寝てた」
「それは知ってる」

はっはっは、と笑いながら寝ぼけているあたしの頭をぽんぽん叩いた。美味しそうな食べ物がいっぱいで、良い夢見てたのに起こさないでよね。なんて寝起きの悪いあたしの反論は飲み込む。あぁ御幸、練習終わって帰って来たんだ。

「…御幸」
「なにー?」
「練習お疲れ」

ふにゃっと微笑んで言ってみた。次の瞬間、あたしの唇に生暖かいものが当たった。御幸の顔が凄く近くにある、てゆーか近すぎ、0センチ?…え、え、え、え?

「…今の、ちゅー?」
「うん」
「な…なんでっ?」

だってあたしたち別に付き合ってないよ?

「俺の布団で寝てるなんて誘ってるとしか思えないんだけど」
「そんなつもりじゃ…」
「分かってるよ遊夜はそんな子って事」

な、何か今バカにされた?だって眠かったんだもん仕方ないじゃんか。

「純さんのベッドで寝てた方が良かった?」
「な訳ないじゃん」

そう言って、またキス。眼鏡が当たって少しだけ痛い。なのに、やめて離れてなんて言えない。だって嫌じゃないの。

「ちゅーなんかして何がたのしいの?」
「それ以上していい?」
「…ちゅーでいい」

了解、御幸は言うとベッドの上で上体だけ起こしているあたしの伸ばした足の上にまたがる。うわ、今度は顔だけじゃなくて体も近い。しかも御幸がかっこいい。どうしよう御幸ってこんなにかっこ良かったのかな?

「わっ」

ジーッと御幸を見つめていると手首を引っ張られた。今度こそ本当に御幸と体がくっついた。もう逃げれない。あたし達は彼氏と彼女でもないただの友達なのに、何でこんなに密着してんだろう

「遊夜、好き」
「…え」

ただの友達。

「本気すぎてやばい」

そう思ってたのは

「遊夜は?」

あたしだけだった。

「わ、わかんない…」
「ははっ何それ」
「だって今までずっと友達だったじゃん」
「友達はキスしねー」
「今が初めてじゃんか」

あ、やばいあたし何か焦ってる。てゆーか喜んでる。御幸に好きなんて言われて嬉しがってる。え、何で?何で?何で?

「俺とのキスいや?」

そんなことない。素直にそう言えないから、あたしは首を横にふった。嫌じゃないって意味で。

「じゃあもう友達は終わりってことで」

また御幸の眼鏡が顔にあたる。口と口をくっつけるだけのキスから、深いキスに変わった。

「…んん」
「その顔そそるね」

御幸はニッコリ笑いながら、邪魔、と言って眼鏡をとった。きゃー本気モード突入?てか眼鏡なしの顔初めて見た。

「その顔そそるね」

真似して言ってみた。御幸の顔が赤くなる。御幸が可愛いなんて生まれて初めて思った。

「…遊夜好き」
「あたしも好き」

御幸からだけじゃなく、あたしもとお互いに唇を近づけた瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。

「「…あ」」
「ゴルァ!何してんだ御幸この野郎!!」
「寮でいちゃつくなんて良い度胸してるね」
「うむ、御幸は凄いな」
「ヒャハッ哲さん、誉めてるんじゃないっすよ」

賑やかな人達が来た。どうにもこうにも、御幸があたしに馬乗りになっているこの体勢では何の言い訳もできなそうだ。

「お邪魔してます…」
「いらっしゃい遊夜」

いやここ亮さんの部屋じゃありませんけどね。あぁその悪魔の笑みには何も言い返せません。

「オラ御幸何か言え!」
「…あ、はい」

良いとこ邪魔しやがって、なんて小さな小さな呟きが聞こえた。あたしは冷や汗をかいた。聞こえてたら殺されるよ。

「先にいただいてます」

そのセリフもだめー!!絶対怒ってるよ御幸!何だかオーラが恐いもん!

「あ、一生あげないから別に先じゃないか」

その補足もいりませんよ、御幸くん…。

「御幸、きめぇ」
「はっはっはっ倉持には遊夜は絶対やらん」
「頂いてるって、遊夜は食べ物じゃないぞ」
「それもそうっすね」

爆笑してる御幸。本気でキモがる倉持。よく分かってない哲さん。亮さんと純さんなんか無言なのに怒りが見えるよ。

「御幸死ぬ?」
「お前はしばきのフルコースじゃあぁあ!!」

御幸、頑張れ。




























(遊夜一緒に寝ようぜ)
(…なんか御幸襲いそうだからやだ)
(む、そもそも寮に泊まるのは問題だぞ)
(じゃああたし哲さんの家行きます)
(遊夜ー!?)

確かに恋だった
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