名前忘れた
「ねぇなにしてんの」
「勉強」
「なんで」
「なんでって…」
何でだろーね。仮にも高校生だからかな、なんて曖昧に答えると鳴は難しそうな顔をした。
「何で勉強すんの」
「え、今言ったじゃん」
「違う勉強しようよ」
なに言ってんだコイツ、危ないこと言うなよ教室のど真ん中で。ほら、あんたの可愛い彼女がソワソワしながらこっちを見てる。あたしになんか構わないで自分の彼女と話してきなさいよ。
「あの子とすればー?」
「あの子って誰だよ」
「鳴の彼女」
「あー…」
「今は誰だっけ?ホイホイ変わってるよね」
目も合わせずに言ったら鳴は考えこんだ。ごめん、あたし意地悪い。だって悔しいんだもん…鳴はすぐに彼女を変えるのにあたしはその彼女の中に入ったことがない。女の子の中で誰よりも鳴といるのはあたしなのに。悔しい悔しい悔しい、あたしだって鳴が好き。けどこの関係を壊したくない。ずるいあたし。
「遊夜」
「なにさ」
「今だれだっけ」
「はあ?」
「彼女」
はい?そんな笑ってごまかしてもダメだよ、こいつ彼女覚えてないの?いくら速攻変わるからって自分の彼女でしょ?
「鳴…まじ?」
「まじまじ、あはは」
「笑い事じゃねーよ」
最悪だな〜鳴。まぁ好きじゃないんだな、なんて分かって安心してしまったあたしも最悪かな。だって、鳴に彼女ができるたびにあたしは、早く別れてしまえばいいなんて思っているから。
「あんたバカでしょ」
「名前忘れた」
「……」
彼女、ドンマイ。
「おっかしーな、遊夜の名前はフルネーム漢字で書けるのに」
「おぉ、そりゃ凄い」
「バカにしてんの?」
「バカじゃん」
反論できずにむーっとふくれる鳴が可愛い。何か、ぎゅってしたい。あぁやばいこれが「らぶどっきゅん」ってヤツだな?
「ねー鳴」
「ん?」
「彼女好きなの」
「ううん別に」
うわ普通に答えたよ。
「じゃあ何でつき合ったりすんの」
「あっれー遊夜ちゃん妬いてる?」
「…いいから答えて」
「照れてる可愛い」
「うっさい、バカ」
今度は何だかちょっと鳴のペースだ。悔しい、さっきまで主導権握ってたのあたしだったのに。とか思いながらも、可愛いなんて言われたあたしの顔はやっぱり熱い。
「知りたい?」
「…うん」
ニヤッと笑って鳴は立ち上がって叫んだ。
「ごめーん俺の彼女!君とは今別れます!」
はいぃいぃぃ!?信じらんないコイツ、教室の真ん中で大声で振った!?しかも名前覚えてないからテキトーだし!教室シーンってなってるよ。てゆうか視線が痛いよ…名前も知らない鳴の(元)彼女が急に泣き出した声まで聞こえてる。
「はい俺フリー」
席にストンと座り直して鳴はニカッと笑った。眩しい笑顔…だけどあんたはバカですよ。
「鳴くんさいあくー」
「ありがと」
「ほめてないし、今一緒にいるあたしまで注目あびてんだけど」
「わーい遊夜と一緒」
「喜ばしくないから」
痛々しい視線を背中に感じながらも、鳴から離れようとは思わない。だって好きだから一緒にいたいと思うからね。
「ねぇねぇ」
「なに?」
「遊夜知りたい?俺が彼女つくってた理由」
「…うん」
なにかと言ってやっぱり気になる。好きでもない人と付き合う気持ちがわかんないし、第一鳴の事知りたいし。
「あんねー…」
鳴は椅子から少し腰を浮かせて、机を挟んで座っていたあたしの耳元に手と口をあてて呟いた。
「遊夜に嫌って言ってほしかったから」
「…え、なにそれ」
「ほんとに欲しかったのは遊夜だよー」
遊夜は俺のモノ。
そう言って鳴は軽くあたしにキスをした。
(な、ななな…)
(好き好き遊夜、大好き可愛すぎて死ぬ)
(…あたしも鳴好き)
(じゃあちゅーしよ今度はもっと深ーいの)
(鳴!ここ教室…)
確かに恋だった