逃げようとしてる?
2月。といえばもちろんバレンタインの季節。青道野球部の義理チョコはマネージャーで分けて負担するのが恒例だ。ちなみにあたしの担当は…何故か一軍だった。なんて運が悪いんだろう…あんなエロ眼鏡や元ヤンゲーマーやスマイル大魔王にあげるなんて恐すぎ。
「ハッピーバレンタイン!遊夜先輩」
「…は?」
噂をしてればエロ眼鏡じゃないかい。エロ眼鏡もとい、御幸一也は目を輝かせてあたしを見た。
「チョコ!!楽しみにしてたんですよ〜」
「何であたしが担当って知ってんの」
「遊夜先輩以外からチョコいりませんしっ」
「あっそ」
何だコイツ…相変わらず目がエロいんだよ。とか言ってもあげなきゃね、そんな顔されたら。
「ん」
「おー!有難う御座います、お礼はキスで」
「いらねーよ」
「ヒャハハッ何やってんだよ御幸」
出た、元ヤンゲーマー眉毛みじか。もとい、倉持洋一だ。
「はいチョコ倉持にも」
「まじっすか…俺今年、遊夜先輩のチョコ以外貰う気ないんで!」
「倉持それ俺の台詞と微妙にかぶってる」
「っせんだよ御幸!!」
わあなんて騒がしい。この二年生コンビはどうも顔を合わせるたびに言い合ってる。ま、勝手にやっとけやっとけ。
「うおーまじさみぃな」
「む、椎名」
歩いてきたのは伊佐敷純と結城哲也だ。特にあだ名は考えてないが…強いて言うならば、強肩乙男と天然キャプテン。うーん20点。
「おはよ哲と純。これあげるチョコ」
「ま、まじか椎名!」
「…家宝にする」
「いや哲食べてよ」
うおーとか言ってチョコを天に掲げて喜ぶ純も、相変わらずだ。
「あっ椎名先輩!」
「おはようございます」
「…おはよございます」
「あ、おはよ」
沢村栄純、小湊春市、降谷暁だ。こいつらは2つも下の可愛い後輩だから変なあだ名なんかつけないであげよう。
「君達にチョコレートフォーユー」
「うおおお!!椎名先輩からとかマジすか!!」
「あ…せ、先輩、ありがとうございます…」
「椎名先輩…俺今日チョコレートは先輩からのしか受けとりませ…」
「「三回目かぶってんだよ降谷てめぇ」」
さっきまで後ろで騒いでた御幸と倉持が急に乗り出してきた。まだ居たのかコイツら、早く教室行けよ。…てゆーか、あたし、あの一番恐い人にまだ渡してない
「哲、亮介は?」
「いや、今日はまだ見てないが」
「そうなんだ」
休み、とかじゃないよね?それだったらつまんない。恐い恐いスマイル大魔王だけど、亮介はあたしの特別だから。
「俺がどうかしたの?遊夜」
…タイミング悪
「…亮介、遅かったね」
「別に普通だよ?他の奴らの気が早いだけ」
ニコッと笑って言う言葉に、他の部員達は気まずそうな顔をした。さすが亮介、触れちゃいけない部分だったよ今の
「遊夜今年誰担当?」
「一軍みんな…」
「ふーん」
こ、恐い。哲や降谷君じゃないけど何かオーラ出てる…しかも黒いよ。
「あ、亮さん」
「あぁ倉持おはよ」
「ヒャハっ亮さんも今年は遊夜先輩からしか貰わない発言します?」
うぉ。よくそんな恐ろしいこと言えるな倉持…二遊間コンビだからって、許されるのか?
「違うよ」
亮介はクスッと笑ってあたしが倉持にあげたチョコを取り上げた。
「俺が遊夜からしか貰わないんじゃなくて、遊夜が俺にしか渡さないんだよ」
はいーっ!?
「な、亮介何言って…」
「文句あるの?」
こっわー!!!!!!黒い黒い黒い黒い!チョコを取り上げられた倉持も恐ろしさに身震いしてるよ!
「ないです…」
そう言ったら亮介は哲、純、御幸、沢村君、弟君、降谷君からもチョコを取り上げた。さすが大魔王誰も反抗できない。
「亮介…」「亮さーん…」「兄貴…」「お兄さん…」
「ん?」
「「「何でもないです」」」
さすが亮介。糸目の一瞥で一発だよね〜…あ〜なんだか恐いから今の内においとましちゃおう。
「じゃあ!あたしはこれで…」
「遊夜」
「…はい」
「逃げようとしてる?」
ひいっ、バレてる!鬼だよ〜恐ろしいよ〜
「はい…」
「逃げて大丈夫とかまさか思ってないよね」
「はい…」
「どうせ教室で会うし」
「はい…」
「部活でも会うしね」
「はい…」
「俺の彼女になって」
「はい……って、え!?」
いやいや今なんかとんでもないワードが紛れてたくないか!?
「なりたくないの?」
う、上から目線…
「いや、その」
「……遊夜」
そっ、そんな目で見ないで!ってか名前呼ばないでよー、キュンとくるじゃないか!
「…りょ、亮介」
「ん?」
「あたし亮介の彼女になりたい」
「よく出来ました」
今年からはずーっと、あたしのバレンタインチョコは亮介だけのものになりそうな予感。
(亮介!義理くらい良いじゃねーか!)
(そうっすよ亮さん!)
(ん?何か言った?)
(((…いえ)))
確かに恋だった