保護者ですから
暇だ、暇すぎる。あたしは今青心寮の御幸の部屋に遊びに来ていた。冬の年末シーズンなので寮生はほとんど帰省してるみたいで、御幸の同室もみんないない。オフなんかほとんどって言っていい程無い御幸と久しぶりの二人きりなんだけど、あたしはやる事がなくて暇でたまらない。御幸の部屋なのに、御幸は構ってくれないんだもん。
「ねー御幸ー」
「んー?」
「何見てんの」
「長澤ちゃん」
…あーそうですか。さっきからずっと雑誌を睨んで、あたしの存在を無視していた理由が分かったよ。あたしの無二のライバルはきっと一生長澤ちゃんだ、長澤ちゃんに勝てる顔じゃ無いけど何かムカつく。たまの休みなのに、彼女放って長澤ちゃんウォッチングですか。良いご身分だなこの野郎
「御幸って長澤ちゃん好きだよね〜」
「大好き」
…ふーん。あっそ。大好きだってーあたしそんなん言われないんだけど。雑誌から全く目を離さずに答える御幸がまたムカつくのなんのって。
「…可愛いよね」
「世界一だわ」
「…」
はいきました。カッチーンときちゃいました。確かにあたしはあんな極上スマイルできないよ、長澤ちゃんの爪の垢でも飲めって感じだよ、けどねあたしそれでもアンタの彼女やってんだよ。……分かってんのかな、あたし今実はすっごい寂しいんだよ?
ねぇ こっち見てよ
「…あたし、倉持の部屋行ってくる」
「は?」
「栄純くんと増子先輩と格ゲーしてくる」
御幸なんか、長澤ちゃんと脳内結婚してれば、とか思いながら立ち上がって御幸に背を向ける。ドアの取っ手に指をかけた瞬間、座ったままの御幸は言った。
「あ。ピンク」
「〜っ!?」
下からパンツ見やがったな御幸の野郎ー!!!!
「何見てんの…っ」
文句を言おうとしたら、御幸にスカートを引っ張られてバランスが崩れた。そのままあぐらをかいた御幸の足の上に座るハメになった。後ろから包み込むように抱きしめられて、すっぽりと収まるあたしの体。
「こんな短いスカート履いて、誘ってんの?」
耳元で言われて、あたしの顔は速攻に熱をもった。御幸の息が、首にかかってくすぐったい。
「そんな訳ないしっ」
「遊夜にその気がなくても、そんな格好倉持になんか見せらんねー」
「御幸が変態な目線で見てるからだよ」
「男はみんな変態」
耳を噛まれた。痛い、と言う余裕もないあたしは恥ずかしさで昇天寸前だった。
「ねー遊夜」
「な…なに」
「妬いてた?」
「!」
直球すぎんだよバカー!てゆーか知っててやってたとか本当コイツ性格わるすぎっ。御幸がする行動はほとんど確信犯で、あたしはいつも踊らされてばっか。
「妬いてないもん」
「嘘つけー」
「嘘じゃないもん……寂しかっただけ」
「あ、今のヤバい」
「何が」
ヤバいの、と言い終わる暇もなく御幸にキスされた。あ、舌。なんて考えられないほどだった。御幸とのキスはいつも酸素が足りなくなる。
「…急にどしたの」
「遊夜可愛い好き」
「長澤ちゃんより?」
「あーどうだろ」
そこは言ってよバカ。なんか、ムカついた。
「倉持の所行ってくる」
「ダメ襲われちゃう」
「別にいいもん」
いくないけどね。
「ダメ」
「何で御幸が決めんの」
「保護者ですから」
いや彼氏でしょ?
「ねぇ長澤ちゃんよりもあたしの方が好き?」
「そんな可愛い事ばっか言ってたら襲う」
「いいよ」
御幸は目をぱちくりさせた。あらー大胆発言過ぎたかしら?なあんて、冗談冗談、とか考えたあたしは甘かった。次の瞬間御幸に押し倒されているあたしがいた。
「長澤ちゃんより好き」
「…あたしも倉持より御幸に抱かれたい」
愛してる、
二人の言葉は重なった。
(一也って呼んで)
(御幸)
(…椎名)
(あ、それ傷付く)
(はっはっはっ俺の気持ちが分かったか!)
確かに恋だった