裏切りは良くないよ
寒い。今の季節は冬。なのに屋上に出て授業をサボってるあたしは、我ながらバカだと思う。けど嫌だった…教室にいるのが。亮介がいるから。
「亮介なんか…嫌い」
呟いたと同時に瞳から涙がこぼれた。ポロッと出たセリフは本当の気持ちの裏返し。亮介が大好き、あたしの彼氏。大魔王だけど、世界一大好きなあたしの恋人。それなのに見てしまった、亮介が他の女の子を抱きしめているところを。あたしが見たことを亮介は知らない。浮気なんて…許せない。ひどいよ、亮介
「授業中っすよー先輩」
「…っ、くらもち」
「休み時間終わんのに屋上行ってんの見えたんで来ました♪ヒャハっ」
あ、やばい、泣いてるとこ見られた。亮介と同じ野球部の倉持とは、少しだけ免疫がある。あぁ…泣くのとめなきゃ。亮介に言われたらどうしよう。涙、トマレ、トマレ、トマレ
「…っう…」
…だめだ…全然…とまんないよ
「亮さん関係ですか?」
「…ん」
「思いっきり泣いていっすよ、言いませんし」
優しく微笑む倉持を見て、涙腺が壊れた。留まりを知らない涙が滝のように溢れ出る。どんどん流れて、床にパタパタと音をたてて落ちていく。
「…えっ」
急に引き寄せられたと思ったら、少しだけ暖かくなった。
自分の五感を疑った。あたしは今、倉持に抱きしめられている。
「く…くら…もち…」
「俺にしとかねーすか?」
「え…」
「俺は遊夜先輩のこと絶対泣かせないっすよ」
倉持の白いブラウスが、あたしの涙でぬれていく。ただ泣いているだけなのに、何で倉持はあたしの気持ちがわかるんだろう。
「なにしてんの」
…えっ
「…りょうすけ」
何でここに
「倉持、遊夜から離れて?殴るよ?」
いつもの笑顔が無い。亮介が、めちゃくちゃ恐い。倉持は黙って抱きしめていたあたしから手を離した。
「遊夜、こっち来て」
「や…やだ」
「来いよ」
「…っ!りょ、亮介、浮気したじゃない!」
「え?」
いつもと違う亮介が凄く恐くて、あたしはわざと目をそらして怒鳴った。
「…朝水道の所で…抱きあってたじゃない…」
あぁ、言ってて悲しくなってくる。思い出したくない。小さなショートヘアの子を、亮介は抱きしめていたから。
「…ねぇ、遊夜」
亮介からかけられた言葉に、肩がひどく反応する。…ついに言われるのだろうか…、『別れよう』なんて─
「あれ弟だよ」
「……、…はい?」
「スランプで落ちこんでたみたいだったから、つい、昔の癖でね」
クスッと笑う亮介から聞かされた真相に、あたしは呆気にとられた。まさかまさか…弟くん?たしかに男の子に見えなくもなかった。…やだ、あたし勘違い。すっごい恥ずかしい!!バカだー!!
「…だから倉持、ごめんね遊夜は譲れない」
「…ヒャハハ、分かってますよ」
「それと遊夜」
「…な、なに…」
恥ずかしさで顔を真っ赤にして亮介の方をむいた。途端、キスされた。余りの驚きで動けない。倉持の目の前で、いきなりやることなのかコレ
「〜っ!?」
いやいや舌入ってますよ亮介さん。むりむりむりむり恥ずかしい!苦しいし、亮介キスうますぎだし、腰が砕けそう。
「ぷはっ亮介!?」
「遊夜、勘違いしたからって、倉持なんかに抱きしめられてたよね」
「…うっ」
痛いとこつくね。しかもコンビを「なんか」呼ばわりしたよこの人!…うわ、やばい。キスの名残でクラクラする。てゆーか亮介、顔近い
「裏切りは良くないよ」
そう言ってまた、亮介はあたしにキスをした。
(何で俺の前でやるんすか亮さん!!)
(わざとだよ倉持)
(亮介やっぱ大魔王…)
(何か言った?遊夜)
(いえ何も……、っ)
(だから亮さーん!!)
確かに恋だった