05
 夢で見たという内容を名前から聞いた時、私はそれが彼女のスタンド能力だと推測した。私のしたこと全てが名前の口から正確に紡がれると、いよいよ背筋が寒くなってくるというものだ。能力の詳細はまだ分からないが、本体が望めばどんな出来事でも夢で見ることができるのだろうか。
 名前は怯えた眼差しで私を見つめている。キラークイーンで彼女を床へ押さえつけた私は、彼女の傍へ近付き、そして囁くように言った。

「前にも見せたね。私はこいつを、キラークイーンと呼んでいる。能力は、どんな物でも爆弾に変えること」

 名前は傍らに立つ私を見つめ、浅く息をしているようだ。その表情は、キラークイーンに遮られていてよく見えなかった。
 私は続けて言う。

「シアーハートアタック……キラークイーンの左手から発射される、自動追尾型の爆弾だ」

 名前は黙ったまま、真っ直ぐ前を見つめている。何かを話そうと口を動かしてはいるものの、呻き声しか聞こえてこない。私は、彼女を責めるように口から言葉を発する。

「名前、私は君のことを助けたと思っている。あの日、君は泣きながらここへ来たね?どうしてだい?」
「それは  
「家の者を殺してしまいたいほど、憎んでいたからじゃあないのかい?」

 名前は目を見開いた。驚きか、それとも恐怖か。直後、名前の瞳から一粒の雫が流れ落ちて行き、彼女の頬にできた涙痕が部屋の明かりでキラリと光った。
 スタンドはもう必要ない……私は薄くなり消えていくキラークイーンの背中越しに、そんな彼女の様子を見つめていたのだ。



「吉良さんに対して、感謝すればいいのか、憎めばいいのか、正直わかりません……」

 床につく前の、名前の言葉だ。彼女が泊まりに来るときは、いつも決まった空き部屋を使う。まあ、これから彼女の住まいになる訳だが。
 襖に手をかけ、ほんの少し横にずらしながら  勿体ぶるように、名前の手は襖を開けていく。

「私にとって、あの家にいることは恐怖でしかありませんでした。でも、いざそれが無くなると、なんというか……」

 名前はそこで一旦区切ると、私の方を振り返る。

「吉良さん。私、助けてくれたのが吉良さんで、とても嬉しいんです……それだけです。おやすみなさい」

 私は、自分のことが信じられない。今まで性の対象は、女性の手そのものだけであったはずだ。名前の手はもちろん、私の理想ではない。が、磨けばとても良い手になるだろう。いや、そうではない。私が驚いているのはそれだけでは無い……。
 名前の、去り際の微笑んだ表情が脳裏に焼きついて離れない。私は、一体どうしてしまったのだろうか。結果的に自身の為になるとはいえ、余計な殺人に手を下し、名前のことを考えているなど……。

「はあ……」

 考えても仕方がない。明日も仕事がある。おやすみ、僕の可愛い人。
 私は枕元の美しい手に自らの手を重ねると、目を閉じる。夢の中でも、名前がコロコロ表情を変えて私の周りをうろつくので(悪い気はしなかった)、夢から覚めた後、朝一番に名前とどう顔を合わせればいいのか少し苦労した。
 寝起きの名前の顔は、とても目つきが悪かった。
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