03
 名前は生き残った。スタンド能力が開花するはずだが、その能力が何なのかは分からなかった。スタンドにも種類があると父親から教わったので、名前の場合は発動するのに条件があるのかもしれない。すぐ現れないからといって、今から焦ることはないだろう。
 それよりも、私は今ひどく困惑している。名前の手が私の手に一瞬触れた時、私は  私は、なんて心地良いんだ、と思った。思ってしまった、とも言うべきだろうか。名前の手は、決して綺麗だとは言えない。人並みであろう。しかし、彼女の手には若さからくる内からの輝きを感じる事ができるし、今まさにフライパンを握っている手の、青く滲むように浮き上がる血管もひけをとらない。もちろん、名前の手をよく見るとささくれがあり、爪の長さも不揃いで、骨格も私の"彼女"には到底及ばない。
 私は、名前に何を求めようとしているのか、自分でも分からない。ただ確実なのは、彼女といると奇妙な安心感を得られることだ。普段、スーツの下に隠しているそれを愛でる時とは、別の何かだ。
 そもそも、名前は私と一緒にいることで「殺されるかもしれない」という不安は無いものか?私の秘密を知っているのに?

「吉良さん、できましたよ」
「食器はそこの棚にある。持ってきてくれないか」
「分かりました」

 名前は私の秘密を知っているし、私も彼女の秘密を知っている。彼女が私のことを言いふらすのは簡単だ。信頼できる人物が近くにいればの話だが。
 私は、漏れ出そうになる笑いを喉の奥でグッとこらえた。結局のところ、私も名前も、お互いに切っても切れない糸で絡みとられてしまったのかもしれない。
 ならば、彼女を利用する事も許されるだろう。その為のリスクも払おう。彼女のスタンド能力が判明した暁には、この吉良吉影の為に働いてもらおう。そこまでしなくとも、名前は私に懐いているので動いてくれるとは思うが……保険というやつだ。それを行うことで、彼女は私に縋るしか方法は無くなるのだから。

「美味しいですね、これ」
「そうかい。嬉しいよ」
「おかわりしてきても良いですか?」
「ああ」

 名前、しっかり働いてくれよ。
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