世界中の幸せが君に降り注ぎますように
 それからはトントン拍子に話は進んでいき、いつの間にか結婚式の日取りまで決まってしまった。妹からはお姉ちゃんいつの間に話を進めてたの、と言われるし、親戚からも、やっとおめでたい話が聞けて幸せだわあ、と、彼氏を連れて挨拶に行った時にそう言われた。いつの間にか、夏の蒸し暑い時期は過ぎ去っていた。

 数ヵ月後、結婚式は慎ましくも盛大に執り行われた。ウエディングドレスに袖を通すと、周りからはなんて素敵なの、と褒め称えられる。私は笑顔でそれに対応しながら、心の中では沈んだ気持ちのままだった。
 まずは教会で、次に近くの会場へ移動。休憩がてら、化粧直しを受ける。ドレスに少しほつれているところが見つかり、急遽直してもらうことになった。そこに、扉をノックする音が聞こえてくる。スタッフが扉を開けると、彼氏が入ってきた。綺麗だよ、と心からそう言われる。私は笑顔で返事を返した。うまく笑えていただろうか。

「そろそろお時間です」

 彼が、行こうか、と腕を差し出す。それに私は縋り付く。何か捕まるものがないと、足元から地の底へ落ちてしまいそうだった。周りを取り囲む人達の笑顔が、今は不快でしょうがない。
 彼が嫌いになったわけではない。好きなことに変わりはない。それでも、自身の本当の気持ちに気付いてしまったのだ。あの八月の暑い日々の中で、確立されてしまったのだ。
 高らかな音楽と共に、スポットライトを浴びる。目がくらむほど眩しかった。それを理由に、今すぐこの場から逃げ出したい衝動をなんとか抑えながら席まで移動した。

「それでは、ケーキ入刀へ参ります」

 いつの間にか祝辞の挨拶も終わり、ケーキ入刀へと移る。巨大な段がさねのそれが、目の前に運び込まれる。彼の手が、ナイフを持った私の手を包み込む。その手は、半透明ではない。実体だ。

「ケーキ、入刀!」

 司会者の掛け声と共に、ナイフをクリームの中へ突き刺す。それと同時に、カメラのフラッシュを盛大に浴びた。
 私は、もう抑えられなかった。あとからあとから涙が止まらない。その涙が頬を伝い落ち、純白のウエディングドレスに染みをつくる。私の涙ひと粒ひと粒が、ドレスを黒色に染め上げていく気がした。いっそのこと、全部黒に染め上げて何も見えなくなればいい。私がそう願っていることも知らずに、彼らはカメラのフラッシュをたく。傍目からは、幸せのあまり嬉し涙を流しているようにしか見えないだろう。そのことも悔しくて悔しくて、堪らなかった。

 花京院くん、心の中でその名前を繰り返し呼ぶ。そうすればまたひょっこり現れる気がして何度も繰り返してしまう。私を攫ってよ、私を遠くまで連れて行ってよ。嗚咽に混じってそう呟いても、しゃくり上げる声に何も伝わることはない。

「おめでとう」
「末永くお幸せに!」

 祝福の賛辞が針に変化して突き刺さる。いくらやめてと叫んだところで、攻撃は止まらない。
 私は本当に酷い女だ。純白のドレスを纏いながら、光り輝くフラッシュの中で嗚咽をあげて泣き続ける。

 花京院くんは、もうどこにもいない。
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