Hello, my angel

 太陽がまだ高く昇っているころ。ポルナレフはうきうきした気分で自宅の電話番号を押す。呼び出し音が鳴っている間に、椅子に座って窓の外の景色を眺めた。バケツをひっくり返したような、澄み渡った青い空が広がっている。

「もしもし?」
「アロー、なまえ!君の声を聞けて、俺はいまめちゃくちゃ幸せな気分だぜ!」

 電話の向こうは、ここフランスから遠い遠い日本だ。受話器越しだが久しぶりに聞くなまえの声に、ポルナレフは心の底から嬉しい、とあらゆる手を尽くしてなまえに伝える。彼女が困ったように笑う声が耳に響く。なまえの表情までもが目の前に浮かぶような気がして、ポルナレフは故郷に帰ってからのことをあれこれ話しだした。

 ポルナレフとなまえは、承太郎を介して出会った。ポルナレフはスタンド使いであり、SPW財団に所属こそしていないものの、時たま依頼を受けていた。その依頼で外国に行くことも多く、英語とフランス語はできるが他の言語はさっぱり。それなら、と承太郎から紹介されたのがなまえである。彼女もスタンド使いだが、攻撃などは全くできないスタンドだ。その代わり、一度目にした言語は書けるようにも、話せるようにもなってしまうらしい。それが彼女の能力だった。なまえは色んな場所に赴き、通訳として活躍しているそうだ。ポルナレフは彼女の姿を一目見て、すぐに惚れてしまった。承太郎もそうなるとは思っていなかったらしく、後になってポルナレフに苦言を呈した。軽々しく口説くのはやめろ、と。
 だがポルナレフはそれに反抗した。俺は本気だ、と珍しく真面目そうに答えるので、承太郎はお決まりの台詞を吐いてポルナレフに後を任せたのだ。

 そしてポルナレフの猛烈なアプローチのおかげか、なまえの好みが彼とマッチしたのか、二人が恋仲になるのにほとんど時間はかからなかった。

「最近はね、暗号までも読めるようになってきちゃって……財団からそっち系の仕事を任されたりするのよ」
「そっち系って……お前一括りに言うけど、それって結構重要な仕事だろ?」
「うふふ、まあね。だから今の愛読書はプログラミングよ。難しいけど、それだけ期待されてるってことだから頑張るわ」

 なまえは本が好きだ。この前もフランスの作家の本を読んだらしく、ポルナレフは本の内容を事細かに語るなまえの声を電話で聞いていた。それからしばらくはなまえの発する言葉が、どこか古きフランスの、遠回しに語るような口調になってしまったので、ポルナレフは少し苦労した思い出がある。今度はプログラミングなので、彼女の言葉は全て記号の羅列のようになってしまうのだろうか。そう言うと、なまえは少し高めの声で笑い、そんなことあるわけないじゃない、と言った。

「ねえポルナレフ、今度はいつ会えるの?」
「そうだなあ、日本に行けるのはまだ当分先だろうしなあ……」

 なまえは会いたい、と口にする。ポルナレフも彼女と会いたいが、先立つものがほとんど無いので行きたくても行けないのだ。

「なまえに会って、早くその可愛い唇に熱いベーゼを贈りたいぜ」
「まあ!お盛んね」

 なまえは照れたように言う。ポルナレフは受話器を手に、三度外の景色を眺めた。あの緑の向こうから、なまえがやってきてくれたら……そう願わずにはいられない。

「ポルナレフ、もしかしたらその願い、案外早く叶うかもしれないわよ」
「はあ?何言ってんだ?」
「ポルナレフ、外をよく見てよ」

 なまえの言葉に疑問を浮かべつつ、ポルナレフは先ほど見ていた外の景色を、今度は目を凝らしてじっと見つめる。
 すると……どうだろう、愛すべきなまえの姿が、ゆっくりではあるが近付いてきている。受話器越しに、私もポルナレフに会いたくて、有給とって来ちゃった、という言葉が吐かれたが、ポルナレフはもはや聞いていなかった。

「なまえ!」

 飛び出すように家を出ると、真っ先に彼女の元へと走っていく。数分後、ポルナレフの手から放り出された受話器からは、二人の楽しそうな笑い声が響いてきたのだった。

title:ジャベリン/遥かなディスタンス
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